ローリングストーン

記者は天国に行けない 第21回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース メディア

執筆の機会が減り、会議ばかりの日々。シンガポールで私は息を吹き返した

1

〈卑屈に頭を下げることなく、会社勤めを終わることができた〉

 定年を迎えて、読売新聞の社内報にそう書いた先輩がいた。出世には無縁な人だった。私も社会部記者としてそのように生きたいと思っていたので、社会部のデスクに就いた後も、上司や先輩と喧嘩を繰り返していた。

 政治家の不祥事や不良債権処理を巡って、自分たちのつかんだ情報を記事にするために、そうせざるを得なかったのである。私たちは「ヒラメ上司に情報を上げるな」と教えられ、「ゴマスリ部長には嘘をつけ」と育てられた最後の世代だ。

 そのころの社会部には、社内の忖度族とぶつかる記者が、まだ何人か残っていた。読売社長だった渡邉恒雄と親しい政治家の不祥事を報じる場合は、いつも理不尽な騒ぎが起きていた。

 だが、その夏は私の中に、忖度族との口論や駆け引きに倦んだ気持ちがあり、一方で、(このままでは記者として使い物にならなくなる)と思うようになっていた。

 私はデスク当番をこなすようになって7年目、若い記者の記事をリライトし、自ら執筆する機会が減っていた。歳の順でとうとう筆頭次長(他社でいう副部長)をやらされ、柄にもなく編集局の会議や部内調整に追われるようになっていた。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年10月号

genre : ニュース メディア