執筆の機会が減り、会議ばかりの日々。シンガポールで私は息を吹き返した
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〈卑屈に頭を下げることなく、会社勤めを終わることができた〉
定年を迎えて、読売新聞の社内報にそう書いた先輩がいた。出世には無縁な人だった。私も社会部記者としてそのように生きたいと思っていたので、社会部のデスクに就いた後も、上司や先輩と喧嘩を繰り返していた。
政治家の不祥事や不良債権処理を巡って、自分たちのつかんだ情報を記事にするために、そうせざるを得なかったのである。私たちは「ヒラメ上司に情報を上げるな」と教えられ、「ゴマスリ部長には嘘をつけ」と育てられた最後の世代だ。
そのころの社会部には、社内の忖度族とぶつかる記者が、まだ何人か残っていた。読売社長だった渡邉恒雄と親しい政治家の不祥事を報じる場合は、いつも理不尽な騒ぎが起きていた。
だが、その夏は私の中に、忖度族との口論や駆け引きに倦んだ気持ちがあり、一方で、(このままでは記者として使い物にならなくなる)と思うようになっていた。
私はデスク当番をこなすようになって7年目、若い記者の記事をリライトし、自ら執筆する機会が減っていた。歳の順でとうとう筆頭次長(他社でいう副部長)をやらされ、柄にもなく編集局の会議や部内調整に追われるようになっていた。
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source : 文藝春秋 2023年10月号