選手の涙や怒声、叱咤の声を記者時代に戻って一心不乱に書いた
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サンマリンスタジアムのベンチ裏の薄闇からグラウンドの芝生に踏み出すと、冷たく澄んだ青空が視界にどっと広がってくる。日向灘から球場に吹く2月の潮風はまだ肌寒かった。きりりとした陽光に包まれた巨人の2008年宮崎キャンプは、10日目を迎えていた。
そこへ現れた四角い顔の男は、「トヨタ自動車BR中長期計画室」主査の肩書を持っていた。沖田大介という、熱烈なジャイアンツファンだった。
日向(ひなた)のような笑顔で気性快活に見えた。基幹職二級(いわゆる部次長級)に昇格したばかりの41歳であった。BRとは「ビジネス・リフォーム」の略である。「変わらないことは悪いこと」を標榜するトヨタは、BRを冠にした部署をたくさん抱えていた。
私はいぶかしんでいた。トヨタ変革を担う人材が、「クルマファンづくりのヒントを得たいので、巨人キャンプを10日ほど視察したい」と言ってきたのだ。
トヨタが本社を置く愛知県は中日ドラゴンズの牙城であり、中日ファンが圧倒的多数を占める。巨人は前年の2007年に5年ぶりのセ・リーグ優勝を遂げて泥沼からようやく脱しつつあったものの、その中日にクライマックスシリーズで3連敗していた。日本一に輝いたのは落合博満監督率いる中日なのであって、巨人キャンプへの来訪は嬉しいが、ヒントを得るならば中日の方がふさわしいようにも思えた。
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