ウクライナ戦争やAI(人工知能)技術の影響で世界中の電力需要が高まっている。2011年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、安全性を問われた日本の原発も、本気で再稼働に舵を切ったようだ。東電はさる1月21日、事故後初めて新潟県の柏崎刈羽原発六号機を動かした。しかし原発再稼働に対する不信の根は絶てない。静岡県の中部電力浜岡原発では、耐震設計に関する地震データの不正操作が発覚し、再稼働したばかりの柏崎刈羽原発も制御棒のトラブルで、1日で運転を停止する始末である。
そもそも日本の電力会社がこれほどまでに再稼働を急ぐのはなぜか。本当に原発は必要なのか。そんな素朴な疑問を抱く向きも少なくないだろう。原発の再稼働は世論を二分し、電力会社や原子力エネルギーに対する信頼が揺らぎ続けている。
元大成建設会長の山内隆司(79)は、福島第一原発の事故処理に奔走する一方、その後の原発再稼働にも取り組んできた。連載5回目は山内の原発体験を紹介する。

――福島第一原発で三度の水素爆発が起き、日本中がパニックに陥ったとき、ゼネコンとしてどのように対処したのか。
「私は地震が発生したとき、たまたま名古屋にいました。すぐに新宿の本社に戻って連日対策会議を開いてきました。災害があると、国土交通省の地方整備局から現地の支店に相談が来ます。支店だけで要員が賄いきれなかったら、本社に要請があります。震災のあと仙台にある東北支店には、復興に関するさまざまな要請がありました。その声に応えるべく、毎日のように会議を開きましたが、原発に関する東電の要請は早かった。会議の最中、土木担当の専務である台(和彦)君の携帯電話が鳴り、深刻そうに話をしている。『何があったんだ』と尋ねると、『東電から緊急の要請がありました』と言う。台君は東電の窓口でもあり、福島第一原発の事故処理について相談されていたのです。
台君は『東京電力から重機のオペレーターを40人出してもらえませんか、という要請がありました』と私に言った。『なぜ40人も重機オペレーターがいるんだ?』と聞き返すと、『放射線量を管理しながら、瓦礫の撤去の作業をしなければならないからです』と答える。メルトダウンした原子炉を消防車で放水してクールダウンさせなければならないけれど、消防車の進入路に放射性物質に汚染された瓦礫が散らかっていて近づけない状況でした。消防車が進入できるようブルドーザーを出してほしいという。それを扱うオペレーターも放射線を浴びるので短時間で交代しなければならず、そのくらいの数が必要だったわけです」
「そんな馬鹿な話があるか」
――東電にどう返事したのか。
「台君ははじめ『会長、この状況で40人もの重機オペレーターを派遣するのは、難しいと思います』と慎重でした。だから私も『本来、その手の作業は福島第一原発をつくった元施工の鹿島に頼むべきだろう。うちは施工していないのだから』と彼に伝えました。すると台君は、『東電によれば、元施工の鹿島に原発の避難指示が出て現地にいない。だから、頼めないそうです』と言う。『そんな馬鹿な話があるか。元施工がやらないのに、なぜ施工もしていないうちが責任を負わなければならないのか』と押し問答になりました。けれど、もはやゼネコン同士で揉めている場合ではありません。東京電力も切羽詰まっている。どこかがやらなければならないのなら、仕方ない。それで決断したのです」
事故から3週間後の4月2日付日経新聞速報は〈福島第1原発のがれき、建機遠隔操作で撤去 ゼネコン3社〉と題してこう報じている。
〈工事は大成建設、鹿島、清水建設のゼネコン(総合建設会社)大手3社による共同企業体(JV)が請け負う。(中略)鹿島は原発事故対応の拠点となっているサッカー練習施設「Jヴィレッジ」に、建機を遠隔操作するオペレーターらを40人ほど集めている〉
新宿本社での出陣式
――記事では大成だけでなく、鹿島や清水が事故対応したかのように書いているが。
「私もJヴィレッジをはじめ現地に何度も足を運びました。その間、鹿島の中村(満義)社長が差し入れを持ってJヴィレッジに慰問に来たことがあると聞きましたけれど、他の会社の労働者は誰もいませんでした。東電から大成と鹿島、清水に『事故処理の方法を考えてほしい』という提案があったのは事実ですが、実際に鹿島や清水が事故の現場に入ったのは、緊急避難指示が解除されたずっとあとのことです。事故直後に放射性物質に汚染された瓦礫を撤去したのは、われわれが派遣したオペレーターだけでした。あの当時は情報が錯綜していましたので仕方ないでしょうけれど、記事は明らかな間違いです。東電は建設会社に震災直後から事故処理の提案をしてほしいと言っていました。しかし、他社が対応したのは、あくまで水素爆発が起きてから何カ月もあとのことです。あとから鹿島が建屋地下の汚染水流入を防ぐための凍土壁、清水は放射能漏れを防ぐための建屋をパネルで覆う工事を提案し、そのためうちとJVを組みました。そうした提案と混同して伝わって記事になったのではないでしょうか。
震災のあった明くる3月12日には福島に派遣する部隊を募って新宿の本社で出陣式をやり、それ以降、オペレーターだけでなく他の社員も送り出しました。震災でJRの常磐線や常磐自動車道が寸断されていたので、バスをチャーターし、迂回して現地に向かってもらいました。バスが出発するときは、私も深々と頭を下げて見送りました。
ゼネコンといっても、常に会社に重機やそれを扱えるオペレーターを抱えているわけではありません。通常の工事でも、協力会社(の下請け業者)に重機の作業を頼む。重機オペレーターの数が40人も必要となれば、そうした全国の業者に声をかけなければなりません。そのなかには、鹿島や清水など他社と共通の協力業者も少なくありません。有名なところでは、福島県の除染をやっていた三重県の水谷建設系列の会社もそうです。
オペレーターの派遣を依頼したそんな土木の協力業者の一社が鹿島とも取引していて、そこが『おたくはやらなくていいのですか』と鹿島にご注進したらしい。それを聞いた鹿島はさぞかし慌てたでしょうね」
――原発を施工した建設会社のメンツが立たないということか。
「鹿島は元施工ですから福島第一原発の現地には、鹿島も東電もいて日頃から付き合いがある。ただし鹿島の作業員は原発事故が起きてすぐ避難したから、現場に戻れない。それで、大成に話がきたのだと思います。
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