小学生のころ、大阪府東大阪市にある実家の隣は鉄工所だった。金属を溶接する臭いが苦手だったが、工場の軒先は校庭の砂場よりも効率良く、砂鉄代わりの鉄粉を集められる人気スポットだった。
その鉄工所がいつ閉鎖されたのか記憶にない。気づいたときには土地は小分けにされ、3階建て住宅が並んでいた。鉄工所を継ぐ人がいなかったと聞いたのは私が大学に入ってからだ。
東大阪は中小企業の街と呼ばれ、製造業の事業所の密度はトップクラスだ。私は、いま中小企業の事業承継を取り上げるウェブメディア「ツギノジダイ」の編集長を務めている。父も中小企業の工場長だ。
そんな街でも工場が戸建て住宅へと姿を変えている。住宅が建つと、もう工場には戻らない。
中小企業庁によれば、経営者の高齢化と後継者の不在により、2025年までに日本企業の3分の1にあたる127万社の中小企業による「大廃業時代」を迎えるかもしれない。中小企業庁は47都道府県に拠点を設け、事業の引き継ぎを後押ししている。しかし、2020年度の成約は1379件。解決が必要な数には、はるかに及ばない。
「おーい! アトツガセ組の親父たち! この期におよんで、なにしようってんだ! そりゃ、まだまだ若いもんにはって気持ちわかる。わかるけど、その元気があるなら、もう1回、新しいことにチャレンジしようぜ! 会社はアトツギに任せて、もうひとつ上のステージで勝負や! その気がないなら、引退だ」
事業承継は、現経営者が決断しないと前に進まない。自身も後を継がせる立場である栗原精機(埼玉県川口市)の栗原稔社長(61)は、同世代にTwitterで檄を飛ばした。
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source : 文藝春秋 2022年4月号