労働者目線の見直しこそ必要だ
先日の自民党の総裁選で、河野太郎氏が「解雇の金銭補償の導入」に言及し、小泉進次郎氏も「解雇規制の見直し」を訴えたことで、「解雇規制の見直し」が一つの争点になりかけました。ところが「企業がクビにしやすくなる」「国際的に見れば日本の解雇規制は厳しくない」といった批判の声が上がると一気にトーンダウン。総裁選後はまったく議論されなくなってしまいました。
厚生労働省の「解雇規制」をめぐる議論に労働経済学者の立場から関わった者としては、非常に残念です。これまでに積み上げられた議論を踏まえた上で提言していれば、これほど簡単に引っ込める必要はなかったはずでした。「なぜ解雇規制の見直しが必要なのか」という、そもそもの前提から理解してもらう説明がなく、人々に漠然とした不安を与えただけで終わってしまいました。
厳しい言い方になりますが、政治家の仕事は、複雑なことでも上手に表現して人々を説得することであるはずです。中途半端な形で提言するなら、初めから出さない方がよかった。これまで少しずつ機運を高めるように慎重に議論してきたのに、それを台無しにしたと言っても過言ではありません。
2015年10月、厚労省に「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が設置され、金銭解雇の必要性があるかどうか、金銭解雇を導入するとすればどうすればよいかを労働法学者、労働経済学者、労働側代表、経営側代表で議論して、2017年5月に報告書を出しました。この議論には私も関わっています。
そこで一つの方向性が出たので、労働法関係者を集めた「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」で、現行法制にどう落とし込むかを整理し、2022年4月に報告書を出しています。ここでかなり具体的な議論を積み上げているので、法制化に手を付けるのであれば、まずこれを検討するところから進める方がよかったのです。
問題はルールの不透明さ
日本は「解雇の難しい国」という認識に対して、37カ国中11位という2019年のOECD調査などを根拠に「厳しくない」という反論がなされてきました。しかし長年、議論を続けて見えてきたのは、日本の制度が他国と違って、複雑で不透明なものとなっていることです。
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