サカナAIには「変わった人」がほしい

改革リーダー6人の提言②

伊藤 錬 Sakana AI共同創業者
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アベノミクス、一億総活躍、資産所得倍増など、この十数年、さまざまな経済対策が講じられたが、長期で見れば、人材の育成こそ最も有効ではないか。AI、半導体から建築、金融まで、「ものづくり大国」再興のために必要な教育とは──

 2023年に日本で立ち上げた「Sakana AI」(サカナAI)は、創業から1年以内に国内最速でユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)となりました。ブレイクスルーとなったのは、小規模の生成AIを組み合わせることで、高い性能を実現するAIの開発。その原動力となったのが、世界トップクラスの人材です。Sakana AIでは、創業当初から優秀なエンジニアを獲得することを一丁目一番地に掲げ、グーグルや著名なスタートアップで活躍する、いわばAI界の「メジャーリーガー」のような研究者を集めました。

 今では半導体大手のエヌビディア、NTTグループ、日本の3メガバンクなどから出資を受けるまでに成長しましたが、実際のところAI業界はまだ黎明期で、特定の専門領域におけるトップ人材が世界に1人、2人しかいないことも珍しくありません。そのため、最先端の技術を生み出すには、数少ないメジャーリーガーを集めることが欠かせないのです。私は多くのメジャーリーガーを日本に連れてきて、若い人たちが彼らのもとで働く機会を作ることが、日本の競争力を取り戻す上で不可欠だと考えています。

 優秀な人材の獲得のため、当社はすべてのエンジニアに採用試験として難易度の高い技術課題を課しています。解くのに数週間かかる分量があり、合格者の解答は全て英語で100ページに及びます。一見変わった問題も多く、例えば「AI技術を用いて新たな漢字を生成するモデルを構築し、『シンギュラリティ』や『インスタグラム』といった日本語にはない単語を表す漢字を作ってください」という問題を出したこともあります。受験者には外国人も多く、漢字の「偏(へん)」や「旁(つくり)」といった概念に馴染みがない人もいます。しかしAIはデータを読み込んで学習するツールなので、漢字データを正しく収集・解析すれば、偏や旁の構造を理解し、「漢字生成モデル」を構築できるはず。モデルが構築できれば、既存の漢字の構造を踏まえた新漢字を生成することが可能、という高度な課題です。こうした課題からは、最先端のAIを改良できるだけでなく、その次を発明できるような規格外の発想力を見出すことができます。

 では、Sakana AIは既にメジャーリーガー級になっている人材だけを採用しているのかというと、そうではありません。博士課程の学生からの応募もありますし、採用試験で優秀な結果を残した学生には、1年間インターンとして働くことを提案することもあります。インターン生は1年間、メジャーリーガーの指導のもと、日々フィードバックを受けながら働くことになるわけです。

 これこそが私が考える高度かつ現実的な「人材教育」です。つまり、「優秀な人材は優秀な人材のもとで育つ」。世界で唯一無二のトップエンジニアに弟子入りし、直接学べる環境こそが重要なのです。実際、インターン生の成長は著しく、半年ほどで正社員登用される人もいます。

日本と世界を繋いでみたい

 私は2001年に外務省に入省し、北米第一課からキャリアをスタートさせました。その後、2005年からワシントンの大使館に勤務、2011年からは再度ワシントンに赴任して今度は世界銀行で勤務しました。この間、同年代のホワイトハウスの役人たちと働いたり、生涯の友人として交流する機会を得ました。

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source : 文藝春秋 2025年4月号

genre : ニュース 社会 経済 テクノロジー 教育