「対抗馬と見られていた大澤氏が、本命だった髙瀬氏を大まくりしたようだ」
今秋、あるメガバンク幹部は、筆者にそう囁いた。半沢淳一頭取(1988年、旧三菱銀行入行)の跡を襲う三菱UFJ銀行の頭取人事である。かねて、代表取締役専務執行役員でグループCSO(最高戦略責任者)の髙瀬英明氏が頭取レースの本命と言われてきたが、ここにきて、同じく代表取締役専務執行役員でコーポレートバンキング部門長を務める大澤正和氏が俄かに追い上げを見せているという。髙瀬氏と大澤氏はともに1991年、三菱UFJ銀行の前身にあたる三菱銀行に入行した同期の間柄だ。

背景にあるのは、「昨年、三菱UFJで発生した貸金庫窃盗事件により、トップ人事が1年、先送りされたこと。その間に、グループ内の権力構造に地殻変動が起きた」(同前)のだという。
人事に影響与えた貸金庫窃盗事件
「銀行の名前とブランドに傷をつけてしまいました。私は、本当にこの銀行に感謝していて、本当にいい会社だと思っています。この悪人……私のためだけに銀行を悪く思わないでください。本当に申し訳ございません」
今年8月、三菱UFJ銀行の貸金庫を舞台に起こった巨額窃盗事件の公判で、窃盗の罪に問われた元行員・山崎由香理被告はそう反省の弁を語った。山崎氏は、2023年3月から2024年10月にかけて、練馬支店と玉川支店の貸金庫に入っていた顧客の金塊29個(時価総額で約3億3000万円相当)や現金約6100万円などを盗んだとされ、公判では「100名ほどから17億~18億円分を盗んだ」と告白。今年10月に東京地裁で懲役9年の実刑判決を言い渡された。
事件を受けて三菱UFJ銀行は今年1月、半沢頭取と堀直樹会長(1983年、旧三和銀行)らに対して、報酬の3割を3カ月間、減額する社内処分を発表。山崎氏が支店の営業課での在籍期間が長く、貸金庫業務が山崎氏任せになっていたことが事件の背景と説明された。「性善説」に立った行員管理には経営側の落ち度があったと判断したわけだ。
事件は持ち株会社である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)及び、傘下の三菱UFJ銀行のトップ人事にも影響を及ぼした。
MUFGは昨年12月に2025年4月からの新首脳人事を発表する見通しだった。MUFGの会長・社長、中核会社である三菱UFJ銀行の会長・頭取という、いわゆる「トップ4」に加え、「グループの信託銀行、証券会社の首脳人事も同時に発表する準備を進めていた」(同行関係者)。
指名委員会等設置会社であるMUFGは、社外取締役を中心に構成する「指名・ガバナンス委員会」が取締役の選解任を決める。5人の委員のうち、亀澤宏規社長(1986年、旧三菱銀行)以外の4人が社外取締役で、委員長は筆頭独立社外取締役の野本弘文氏(東急代表取締役会長)が務めている。昨秋時点で、同委員会はサクセッションプラン(後継者計画)に基づき、亀澤社長の後任人事と、三菱UFJ銀行を中心としたグループ各社の首脳人事に向けた大詰めの議論に入っていた。
あとは発表のタイミングを待つのみだったが、貸金庫事件により延期された。11月22日に三菱UFJ銀行が事件の概要を発表すると、12月16日には、半沢頭取らによる謝罪会見を実施。仮にその前後にグループ各社の首脳人事を発表すれば、「晴れがましいトップ交代会見の場が、事件追及の場に変わりかねない」(前出・関係者)と懸念されたためだ。
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