AIと働いてみて得意と不得意が見えてきた

亀澤 宏規 三菱UFJフィナンシャル・グループ社長
伊藤 錬 Sakana AI 共同創業者・COO
ビジネス 企業 テクノロジー

AIが上司になる時代が来た

 亀澤 伊藤さんとは「AIは“ツール”ではなく、“ロール(役割)”として扱うべきである」という話をよくしていますよね。

 伊藤 そうですよね。そういえば先週もLinkedIn(ビジネス特化型SNS)の共同創業者であるリード・ホフマンが同じことを言っていました。「今度、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と『融資AI』を作ろうとしているんだ」と彼に話したら、「レン、『ツールとしてソフトウェアを差し上げます。お使いください』というのではダメだ。外に置くのではなく、あくまで銀行の業務の中に入れる。支店長がいて、融資担当者がいて、その人たちと並ぶようにAIを入れなければいけない」と力説していました。彼とは定期的に会食をして、Sakana AI(サカナAI)へのアドバイスをもらっているんですが、このときは2時間ずっと「ロール」を強調していた。彼のような最先端のITトップがAIについてこんな話をするなんて、なかなか面白いなと思いました。

三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長(右)とSakana AI共同創業者の伊藤錬COO Ⓒ文藝春秋-main

 亀澤 やはりトップランナーはその領域に達しているんですよね。コミュニティの中にAIを入れるという発想は、まさに今われわれがやろうとしていることの基本思想です。私は伊藤さんたちの力をお借りしながら、“AIネイティブ”な組織を作りたいと思っています。それは、人とAIが同等の関係で仕事をしている組織のことです。

 読者の方には突拍子もなく聞こえるかもしれませんが、その中では「AIが働きやすい環境づくり」といったことも考えています。人間の場合は働き方改革や福利厚生の充実などで働きやすい環境を整えることが思い浮かびますが、AIにとって働きやすい環境が何かといえば、データベースが整備されていて、社内のデータにアクセスしやすく、人との間で十分にコミュニケーションができる状態です。

 逆にいえば、そういうAIネイティブな会社にならなければ、AIネイティブな会社に負けてしまう、そんな時代がやって来る。そういう意識をもって、私は今回の取り組みに臨んでいます。

「AI社員」と働く

 今年5月、Sakana AIとMUFGによるパートナーシップ提携がスタートし、MUFGはSakana AI共同創業者の伊藤錬COOを「AIアドバイザー」に招聘した。2023年に日本で創業したSakana AIは、その後1年以内に国内最速でユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)になった注目のAIベンチャー。複数のAIを少しずつ組み合わせて、新たに性能の高いAIを生み出す「進化的モデルマージ」や、アイデア考案から論文執筆までの科学研究の全工程を自動化する「AIサイエンティスト」など、画期的な技術を生み出し続け、半導体大手のNVIDIAやNTTグループ、三メガバンクなどからの出資を集めている。

 同社の最新の取り組みが、日本最大手のメガバンク・MUFGとの提携だった。AIによる融資の稟議書作成など業務の大幅な効率化につなげ、MUFGは3年で500億円だった予算枠を100億円増額し、より踏み込んだAIの活用法を探るという。両者の契約は3年超に及び、MUFGは最大で50億円規模を支払う。

 今年3月期の連結純利益が1兆8629億円というグループ発足以来の最高益を更新したMUFGは、新進気鋭のAIベンチャーと組んで何を始めるつもりなのか。

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source : 文藝春秋 2025年11月号

genre : ビジネス 企業 テクノロジー