TSMC工場建設は100年に1度の大チャンス

改革リーダー6人の提言③

小川 久雄 熊本大学学長
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アベノミクス、一億総活躍、資産所得倍増など、この十数年、さまざまな経済対策が講じられたが、長期で見れば、人材の育成こそ最も有効ではないか。AI、半導体から建築、金融まで、「ものづくり大国」再興のために必要な教育とは──

 熊本がいま日本で一番大きく変化している都市であることは、間違いありません。きっかけは世界最大の半導体受託生産メーカーである、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)がやって来たことです。

 ご存じのとおり、日本の半導体産業は1980年代に全盛期を迎え、アメリカを追い抜いて世界シェア1位に君臨しました。半導体製造に欠かせない水資源が豊富な九州地方には1960年代以降、三菱電機やNECなど大手半導体関連企業が次々と工場を建設。アメリカのシリコンバレーにならって「シリコンアイランド」と呼ばれるほどの活況を呈しました。ところが日本の半導体産業は1990年代から失速しはじめ、現在に至るまで低空飛行を続けているのが実情です。

 かたやTSMCは世界初のファウンドリー(受託生産企業)として1987年に創業され、いまや世界の半導体産業を牽引するリーディングカンパニーとして大きな存在感を示しています。

 そんな世界的企業が熊本にやってくる――TSMCが熊本市菊陽町での工場建設を発表したのは2021年10月。私はもともと循環器内科の医師で、2016年2月から21年3月まで国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の理事長を務めていました。それが縁あって熊本大学の学長に就任してから半年後にTSMCの発表があったのです。ニュースを聞いて熊本にとって“100年に1度の大チャンス”であると確信しました。

小川久雄氏 Ⓒ文藝春秋

 しかし、現在の日本の技術レベルでは、この大チャンスを最大限に活かすことは難しいのではないか。私は強い危機感を抱いています。「失われた30年」の間に衰退した「日本のものづくり」は大きく損なわれてしまいました。半導体はその筆頭でしょう。それを猛スピードで再興しなければいけません。そのためには、遠回りに見えても、根本である学術レベルを一刻も早く回復させなければいけないのです。

求められる人材像と教育対策

 残念ながら、わが国の学術レベルは急激に低下しているというのが偽らざる現状です。例えば、自然科学の分野で質が高い論文の指標とされる「トップ10%論文」の本数がそれを物語っています。これは国の学術レベルを示す指標のひとつで、医学や工学などの分野ごとに、他の研究者からの引用回数を順位付けし、その上位10%以内に入る論文の本数を比較したものです。

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source : 文藝春秋 2025年4月号

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