〈ついに最終回〉大衆よ、ファシズムに呑まれるな

総力特集 高市早苗総理大臣の人間力

保阪 正康 昭和史研究家
ニュース 社会 政治 昭和史 歴史

日本人ファーストはファシズムの兆候だ

「昭和100年」「戦後80年」という節目の年に「真正保守」の再興を掲げ、歴史の地下水脈を辿り直し、過去と現在を往還する作業を続けてきたが、本稿をもってこの連載は終了する。いまの日本社会を見据えると、乱世に入ったかのような様相が眼前に広がっている。それは転換期であるとの意味にもなるし、漸次の変革が始まるときであるとも言える。一方で戦前からの地下水脈が現代に流れ込み始め、戦後的な民主主義を溶解させつつある。最終回は、現在の政治と社会の動きを歴史からの視座で詳細に見つめ、「真正保守」の立場からいかなる変革をなし得るかを考えてみたい。そのとき、時代を揺り動かす「大衆という脅威」への着目が不可欠であるように思う。

 自民党総裁選を制したのは、大方の予想とは異なって高市早苗前経済安全保障相であった。私は総裁選の内幕を知るわけではないが、決選投票を争った小泉進次郎農水相は、度重なるスキャンダルと政治家としての力量不足が露呈する局面があって支持を減らし、党内右派を中心に票の組織化に執念を燃やした高市が念願を果たすことになったと大筋では論評されている。

 だがより本質的には、日本人ファースト、排外主義、歴史修正主義を特徴とする国家主義的右派の席捲(せっけん)や、社会に充満する過剰なナショナリズムの気風が、総裁選の投票権を持つ自民党員や自民党国会議員に作用したことが大きかったのではないか。その意味で、高市総裁が誕生したのは、高市が党内の権力闘争に勝利したということに留まらず、その背景には現在日本の大衆の情動が色濃く塗り込まれていると言える。

 その後、予想外の事態は続いた。政治とカネの問題を解決するための提案への自民党の不誠実な対応を理由に、公明党が26年にわたる連立から離脱した。これにより、数の上では高市首相誕生が流れる可能性も生じたが、高市は新たに日本維新の会との連携を探って合意に至り、10月21日の首班指名選挙で首相の座に就いた。発足時の高市内閣の支持率は、読売新聞の世論調査では70パーセントを超え、その経済重視の姿勢は市場からも歓迎されているように見える。いまのところ、大衆的な強い支持が高市政権に向けられていると言えるだろう。

「連立政権合意書」にサイン Ⓒ時事通信社

 だが、その後明らかになる高市の政策を見るにつけ、平和を創出して国民生活を支えるという政治の根本に向かおうとしているようには思えない。高市が現実政治を遂行するなかで必ず強いられる妥協や調整のなかで少しでも柔軟化することを期待したいが、根本的な政治姿勢に対する危惧は強くある。

公明党の反戦と反強権支配

 そのことを論じる前に、ここで公明党と維新に触れておきたい。

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source : 文藝春秋 2025年12月号

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