サプライチェーンの構築がカギを握る
昨年の発足から一貫して「未来への投資」を掲げている高市政権は、成長戦略の柱として、政府による重点投資対象となる17の戦略分野を選定した。この17分野において「AI・半導体」「造船」に次ぐ3番目に位置するのが「量子」分野である。
一般には馴染みの薄い、量子コンピュータを中心とする量子技術の研究開発は日本社会にいかなる恩恵をもたらすのか。世界で同分野を牽引する米IBMの日本法人の副社長で最高技術責任者である森本典繁氏が解説する。
量子分野が政府の重点投資対象に選ばれたことは、我々、IBMにとっては歓迎すべきことです。量子コンピュータの開発には多くの労力と時間とお金がかかりますから、民間投資だけではリスクが大きすぎ、政府の継続的な支援と投資が不可欠だからです。

期待が大きい反面、私が少し心配しているのは、せっかくの投資が「薄く広く」分散してしまうことです。日本の先端分野投資の失敗は悉くこのパターンを繰り返してきました。個々の企業や研究所が持つ「要素技術」に優れたものがあっても、それらを一つのプロジェクトに統合する大きな枠組みを欠いたために、それぞれが「優秀な部品屋」に留まってしまうケースが多いのです。
投資は「集中」させるべきだ
量子コンピュータの分野では、アメリカを筆頭とする先頭集団がいて、おそらくは中国もこの一角を担っている。日本は二番手集団のトップあたりでしょう。
この分野では、IBMやGoogleなどの民間企業が、いわば“道のないところ”をパイオニア的に切り拓いてきました。つまり、後を追う日本にとってはある程度“道はみえている”と言えます。研究開発には「技術探索」の段階とその技術を深掘りする「集中」の段階があるのです。
すでに目の前に進める“道”が示されているなら、先頭集団の通った道を辿るのが最善の策でしょう。“勝ち筋”が見えているのであれば、投資先を「分散」させるのではなく、より成功する確率の高いところに「集中」させる方が合理的です。
現在の量子コンピュータの研究開発は、理化学研究所(理研)などが中心となり、しっかりとガバナンスを効かせ、各企業、各研究所が得意技術を持ち寄って、理想に近い形で国家プロジェクトが進んでいます。
分野を問わず、アメリカでは、政府よりも民間投資が盛んで、成長が期待できる分野に投資家やベンチャーキャピタルが巨額を投じることで、研究開発が進んでいます。つまり、ハイリスクであってもハイリターンが期待できる好循環が生まれています。
その点、日本の企業はより慎重でリスクを簡単に取ろうとしません。量子コンピュータの分野でも、IBMと一緒に研究開発を進めて頂いている先進的なパートナー企業もありますが、今はまだ大多数は“様子見の状態”です。
日本企業の多くはこうした企業風土であるだけに、量子分野が17分野の上位に選ばれたのは喜ばしいことです。これが官の投資だけに終わるのではなく、民間投資の呼び水となると期待したいところです。
一方、「17の戦略分野」全体を眺めてみますと、特に情報産業分野の粒度があまり整理されていないという印象があります。
たとえば「AI・半導体」は、ほぼすべての分野で必要不可欠なのに、独立した一つの項目として立てられています。「デジタル・サイバーセキュリティ」は技術的には「情報通信」と重複しています。
仮に情報産業分野の視点で少し構造化して整理するならば、まず基幹情報インフラとして「デジタル・サイバーセキュリティ」「情報通信」を含めます。その上にコンピューティング技術として、「半導体」「量子」等の技術からなる、CPU(中央演算処理装置)、GPU(画像処理装置)、QPU(量子演算処理装置)を含めます。そしてこれらの技術を利用して発展する産業として「AI」とその応用分野である「バイオ」「創薬」等を含める、といった具合です。
このように「17の重点分野」をもう少し“階層化”し、相互の依存関係を示すとより戦略意図が理解しやすいのではないでしょうか。
「古典」と「量子」の役割分担
皆さんが普段触れている古典(従来型)コンピュータは、情報を「1か0か」で表現する「ビット」を計算の最小単位として使っています。すべてのデータや処理を0(オフ)と1(オン)の2進数の組み合わせに変換して処理する方式で、「デジタル方式」とも呼ばれます。スマホからスーパーコンピュータまで、基本的には同じ理屈です。
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