米中半導体戦争下での日本の勝ち筋を語る
歴史家でタフツ大学教授のクリス・ミラー氏は、2022年に『Chip War』(邦訳は23年に『半導体戦争』として刊行)を上梓した。この著書は「21世紀の石油」と呼ばれる半導体をめぐる米中の熾烈な戦いを描き、世界的な反響を呼んだ。1986年から92年まで半導体の世界シェア第1位を誇った日本は、米中の間で「半導体立国」復活の機会をうかがっている。それはどのようにすれば可能なのか? ミラー氏に訊いた。
日本の半導体の未来を考える前にまず半導体をめぐる最新の世界情勢を概観しておきましょう。
AIなどの最新先端技術に主に使われる16nm(ナノメートル、1nmは100万分の1ミリ)以下の先端半導体をめぐる、米中の激しい競争は今後も続くでしょう。しかし、その分野の技術力で中国がアメリカを凌駕することは、当分の間ないと考えられます。
アメリカは現在、先端半導体を台湾や韓国との協力の下に生産していますが、品質の差も考慮した推定最高値で見ると、台湾は今年、AIに必要な先端半導体を中国の30倍、生産する予定です。この差はかなり驚異的です。中国はアメリカと同等の量の半導体をAIに埋め込みたいはずですが、自前では、その量を生産できないのです。

アメリカが中国との半導体戦争に勝つために最も重要なことは、先端半導体の技術を進歩させ続け、中国に対しての技術的優位を保つことです。実際、アメリカは台湾、韓国、日本の企業とともにそれを実行し、半導体技術を非常に速いスピードで進歩させ、より低コストで高い計算能力を実現しています。
第二に重要なことは、高性能の先端半導体を作り、それによって高性能のAIを開発するだけでなく、AIを経済全体に行き渡らせることです。AIをIT分野だけでなく、医療や健康、物流、製造現場など、様々な分野で実装できたときに初めて、AIがもたらす経済的な利益が実現されるからです。アメリカだけでなく、台湾、韓国、日本などの同盟国が一丸となって、経済全体にAIを実装できるか。この協力関係の成否が中国に勝つために乗り越えるべき大きな課題となるでしょう。
台湾のリスクは高まっている
アメリカが半導体戦争に勝つためには、「台湾有事」にも備えておかなければなりません。その可能性は高まっていると私は考えています。しかし、それはトランプ大統領の政策や今年打ち出した「ドンロー主義」(西半球をアメリカの勢力圏に置こうとする外交・安全保障政策)とは、関係ありません。その可能性が高まっているのは、単に中国の軍事力が増大しているからです。

この10年来、中国はミサイル、艦船、戦闘機の配備数を増やし、軍事的な優位性を高めてきました。中国の政治的指導者がまだ台湾に侵攻しない唯一の理由は、中国が支払うことになる経済的及び軍事的コストを恐れてのことです。しかし、中国の軍事力が増大するにつれて、その指導者は台湾侵攻が成功するだろうと考えるようになるでしょう。時が経つほどにリスクが高まっていくと私が考えるのは、そのためです。
アメリカをはじめ多くの西側諸国が、台湾有事があっても、半導体の供給が滞らないような手を打ち、経済分野でのリスク分散を図ってきましたが、目を凝らしてみれば、リスク分散に最も成功しているのは、中国です。
中国は半導体の台湾への依存度を急速に減らしています。先ほども述べたように中国は先端半導体の分野では、AIに使う半導体を含め、必要としている量を十分に生産できません。しかし、自動車、機械、一般消費者向けのソフトウェアなど産業基盤全体に必要不可欠な非先端半導体の分野では、急速に自国での生産能力を高め、台湾への依存度を低下させているのです。
ですから、台湾のいわゆる「シリコン・シールド」(台湾に世界的な半導体企業であるTSMCの工場があることが、台湾侵攻への抑止力になっているという考え)は弱まっていると私は考えています。
アメリカ、韓国、日本などの西側諸国は懸命に、台湾への依存度を減らすために様々な方策を取ってきました。日本は熊本に、アメリカはアリゾナ州フェニックスにTSMCの工場を誘致しました。しかし、現実には台湾はいまだに世界の半導体サプライチェーンの絶対的中心であり続けています。ですから、台湾で何らかの破壊や混乱が起きれば、西側諸国には、経済的なカタストロフがもたらされるでしょう。
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