女流作家に憧れた私たち

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不自由と戦ってきた彼女たちのことをもっと知ってほしい

 川上 詠美さんの新作『三頭の蝶の道』(河出書房新社)を読みました。一つひとつの台詞や登場する女性作家たちの関係性の描写を見て「怖いほど臨場感があるな」と思いつつ、一方で感じたのは詠美さんが持つ義務感みたいなものです。きちんと意思表明しておこうとしたのかなって。

 山田 あるね、デューティー感。この世界に40年いるけど、最近は「それ違うよ」って思うことが増えてきた気がする。知ったふうに語られることへの反発がこれを書いたモチベーションのひとつでもあるの。

 江國 私も、この作品で描かれた女性作家がいた時代そのものが色っぽいなと思うとともに、彼女たちの関係を怖く感じることもあった。とにかく、これを書くことにした詠美さんの勇気に心を動かされました。

 山田 ありがとう。実は、最近、若い女性作家が「女流作家という呼び名には吐き気がする」と発言しているのを読んで、嫌な気持ちになったんです。その時代の真っ只中にいたこともないのに、あれこれ言われると腹が立つな、って。「女流作家」がいたからこそ、女性の作家が昔よりも活躍できるようになったわけだし、過去の現実を知っていれば、「女流」という呼び名は差別だ、と言い切るなんて、とてもできないはず。「女流」という言葉が使われなくなった時代だからこそ、「女流作家」のことを書いておかなければ、と。

 10月16日、デビュー40周年を迎えた山田詠美氏が『三頭の蝶の道』を上梓した。女性作家が「女流」と呼ばれた時代の文壇を舞台に、河野多惠子と大庭みな子、瀬戸内寂聴を彷彿とさせる3人の作家の足跡が描かれている。

 河野はデビュー作「幼児狩り」で注目を集め、1963年、「蟹」で芥川賞を受賞。1987年に女性初の芥川賞選考委員に就任した。大庭は1968年に「三匹の蟹」で芥川賞を受賞。河野と同時に芥川賞選考委員となった。この2人と深く交流した瀬戸内は1965、66年に刊行した『かの子撩乱』や『美は乱調にあり』で人気作家となった。

 女性作家たちは、偏見や差別が今よりも確固としてあった時代をどう歩んだのか。山田氏とともに芥川賞選考委員を務める川上弘美氏と、同時期にデビューした直木賞作家・江國香織氏が、時代によって変化していく女性作家のあり方を語り合った。

左から江國香織氏、山田詠美氏、川上弘美氏

 山田 私がデビューした1985年は、まだ圧倒的に女性作家の数が少なかった。その中で、河野さんや大庭さん、瀬戸内さんのような大先輩の姿をつぶさに見てきました。

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source : 文藝春秋 2025年12月号

genre : エンタメ 読書 芥川賞