されどわれらが女の自立

第12回

山田 詠美 作家
エンタメ 社会 読書

 毎週日曜日に放映される「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」を録画して必ず観ている。NHKの大河ドラマを欠かさず観るなんて、「龍馬伝」以来、十五年ぶり。江戸時代の後半から明治に至るまでの歴史は本当におもしろいし、吉原が舞台の映画やドラマ(もちろん小説も)も、ほとんど例外なく惹き付けられる。

 あ、ここで、女性蔑視の権化である吉原、許すまじ! なんて不粋なことは言いっこなし。常日頃、私は言ったり書いたりしているのだが、差別のあった背景を描くことと、差別主義者であることは全然違う。なかったことにしたい歴史や風俗の負の遺産の中で、美しい花が咲く時もある。それを見逃がさずにすくい取るのも、創作に携わる者たちの仕事だろう。

 なんて。私、昔から春画とかに目くじら立てる人の気持が解んないのよ。春画の展示、けしからん! とか言う人に限って、何故か、昔のヨーロッパの絵画がどんなにエロティックでも、芸術として受け入れる。

 さて、「べらぼう」だが、出演する俳優さんたちは、皆それぞれに美しく味があり存在感を見せつけている。中でも、平賀源内役の安田顕さんは、すごい熱演だった。

 いや、しかし……私の年代で平賀源内といったら、やはり、四月に亡くなった「天下御免」の山口崇さんなのだ。私は、放送開始当時、中学一年生。毎回、夢中になって見た。NHKには映像が一本も現存していないそうで、山口さんが個人的に録画していた第一回と最終回の部分映像、脚本担当の早坂暁さんが録音した半数以上の回のカセットテープの音声が残っているだけだそう。何がまだ子供だった私たちをあれだけ夢中にさせたのか。またどうしても観てみたいものだ。放映された翌日は、教室で「平賀ぶり」を真似する男子までいて沸いていた。

 まさか、早坂暁さんと十五年も経ってから、同じ雑誌(新潮45)で連載を持つようになろうとは! 光栄です! でも実はあの時、超遅筆の早坂先生より原稿が遅れないようホテルにカンヅメにされて、ほとんど泣きながら書き上げた。ちなみに連載小説の題名は「ひざまずいて足をお舐め」。なんてハレンチな! と早坂先生が思ったかどうかは定かではない。

ああ!? と驚愕

 そうだ! 山口崇の思い出つながりで録画してあった映画を観てみよう、と思い、「『されどわれらが日々―』より 別れの詩(うた)」を観た。この題名通り、一九六四年に芥川賞を受賞して大ベストセラーとなった柴田翔さんの小説が原作の学生運動世代を描いた青春物語。今、調べてみると、なんと百八十六万部も売り上げた当時の若者のバイブルだとか。

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source : 文藝春秋 2025年10月号

genre : エンタメ 社会 読書