米にまつわる政治家語

第10回

山田 詠美 作家
エンタメ 政治 読書

 江藤拓農林水産大臣が「私は米を買ったことがない。支援者の方々が沢山の米をくださり、売るほどある」などと地方の講演で発言して、大批判され、ついには辞任して、「元」農林水産大臣になってしまった。

 けしからん、どん!(机を叩く音)米の価格高騰が国民の生活を圧迫する事態になっている今、そんな不謹慎なことを口にするとは万死に値する! どん!(机を……以下略)と、多くの人々が激怒したのだった。

 もちろん、私も何故、今この時? と呆れたのだが、と同時に思い出すことがあった。作家になる前の遠い昔の話になってしまうが、私は、水商売のバイトを転々としていた。その時、入店したばかりの銀座のクラブで、控え目に周囲の様子をうかがっていた私は、客とホステスのこんなやり取りを目の当たりにした。

「あ、ここ、ギネス、置いてあったっけ」

「はーい。売るほどあるわよー」

 ほお、そう答えるのか、と思った駆け出しホステスの私は、次の瞬間、席に着こうとしたママの押し殺した激しい怒りを感じ取って身震いした。「売るほどある」発言をした件(くだん)のホステスは、ちょっと! とママに呼ばれて店の隅で、こっぴどく𠮟られていた。いわく、

「うちは、◯◯◯(地名)のスナックじゃないのよ!!」

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source : 文藝春秋 2025年8月号

genre : エンタメ 政治 読書