言葉の偏食者

第5回

山田 詠美 作家
エンタメ 読書

「蜥蜴(とかげ)の尻尾(しっぽ)切り」について考えてみる。広辞苑によると、こうある。

〈尾を押さえられたトカゲがそれを切り離して逃げるように、問い詰められた責任を下位の関係者にかぶせて逃れること〉

 ふーん、なるほどね。

 御存じの方も多いと思うが、昨年の暮れ、某女性美容外科医がグアムでの解剖研修の際の献体写真をSNSで公開し、「頭部がたくさん並んでるよ」などと綴ったとか。しかも、遺体の一部にはモザイクが掛けられておらず、女性医師はピースサイン……これは、とんでもない! 倫理的にあっちゃならんこと!! と非難ごうごうで大炎上。その後、本人によって削除され、謝罪文も出た。しかし、追って、上司が謝罪し、その文言が不遜極まりないと再び炎上、またもや謝罪、さらに炎上……と、いつまで続くの? という状態に。

 私は、献体として横たわる遺体に感謝と畏敬の念を持つべきだとは思うが、いちいちそんなもんを持って死体を人間扱いしていたら解剖なんか出来る訳ない、と考える医師がいても当然だと思う。昔、ウィリアム・ハートが出演していた映画では、手術の最中に音楽をかけて歌っていたものね。まあ、公の場でひけらかすのは論外であるが。

 問題視すべき、と私が思うのは、上司である統括院長が追い謝罪の文言で使った「トカゲの尻尾切り」なのである。

「不勉強でfresh cadaver(新鮮な遺体のことらしい。筆者注)という言葉すら知らない医師に批判されたまま、炎上でトカゲの尻尾切りのように解雇する事はできないと判断しました」

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source : 文藝春秋 2025年3月号

genre : エンタメ 読書