勝手に総裁“戦”観戦記

新連載 第2回

山田 詠美 作家
エンタメ 政治 読書

 新総理には、石破茂氏が就任した……なんて書き出しだと、何を今頃言ってやがると言われちゃいそうだが、月刊誌だから仕方ないのである。近頃、ニュースの速報性ばかりが重要視されているが、それについて後々考察する、というのもメディアの重要な役目。それなのに、報道したら、その責任から逃がれるようにして、それっきりという媒体の多いこと(特に新聞)。

 新聞と言えば、「夕刊フジ」の来年休刊が決まったそうな。TVのニュースで、残念! と口々に言うサラリーマンの人々を映していたが、私は、画面のこちら側で、ヤッホー!! とばかりに喜んでいた。やっと、なくなってくれたか、と。

 実は、四十年近く前に、私に関するネチネチとした嫌〜な記事が掲載されたものだから恨んでいるのである。ええ、今でも。向こうが、私みたいにとう(、、)の立った物書きには、もう何の関心も持っていないとじゅうじゅう承知しながらも、まだあの時の怒りを保存しているのである。

 私が直木賞を受賞した時のこと。その前の候補段階で、当時、一緒に暮らしていた男が事件を起こして逮捕されてしまったのだが、夕刊フジは、これが甲子園の選抜なら、出場辞退するのに、山田詠美は、まだ厚かましく候補に居座っているという意味合いのことを書いた。

 事件を起こしたのは私本人ではない。結婚相手でもない。でも、高校生の野球と日本文学を結び付けて、私に直木賞候補から外れろとせまる。何様? あ、記者様か。百歩譲って、スキャンダルなんだから、報道されて当然だろ、というあちらサイドの意見も耳には入れておこう。でもさ、日本文学なんて、スキャンダルの歴史じゃないか。

 選考委員を代表して記者会見で、こう喝破してくださったのは、女性で初めて(!)委員になった田辺聖子さんだった。

「さすが罪を犯した人の親を引きずり出して土下座をさせるようなお国柄だ。だけど、小説とそれとはまったく関係のないこと」

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source : 文藝春秋 2024年12月号

genre : エンタメ 政治 読書