この号が出る頃には、この国の新しい総理大臣が決まっている筈だが、今、これを書いている段階では、候補者全員がまだ出そろってもいない……なんて書き出しだと、政治に一家言あるもの書きと思われそうだが、全然そんなことはない。
だいたい、私は、世間にもの申したりするのが面倒臭くてたまらないと感じるタイプ。それなのに、下世話な好奇心だけは人一倍持ち合わせてるので、つい口出しをする。
私の口出し方法と言えば、高みの見物を決め込みながら、野次馬としての立ち位置を守り、無責任に揚げ足を取りつつ、時に日和るというもの。しかし、勝ち馬には、あえて乗らないのが流儀。まあ、ことさら負け馬に乗ることもないが。そして、右も左もない。
この連載では、日々、生まれては消える快、不快を、言葉を中心にピックアップしてみたいと思う。言葉には、スピリットが宿る。それが、良いパワーを生み出して守護霊に変わるか、悪霊となって徘徊し腐臭をまき散らすかは、使う人次第である。
で、話は、政治まわりに戻るのだが、まだ誰も自民党総裁選に出馬表明していないのに、周辺がかまびすしくなり始めた時。河野太郎氏が、副総裁の麻生太郎氏と食事をしたという情報に、記者たちが色めき立って押しかけた。当然、総裁選に立候補するのか否かを知りたがった訳だが、河野氏は、質問にこう答えた。
「おもしろい小説だと思う」
ここで、記者だったら、あーん、じらさないでちょうだいよっ、もう、いぢわる! ってなことを思うのかもしれないが、リアル小説家である私は、真底疑問に感じて首を傾げたのである。こんなふうに。
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source : 文藝春秋 2024年11月号