自称観相小説家

第6回

山田 詠美 作家
エンタメ 政治 読書

 ルッキズムとは、まったく別の観点から人の顔を見て、あれこれ言ったりするのが大好き、と前に書いた。週刊文春の年末恒例企画であった「顔面相似形」のグラビアページが好きで、葉書きを送ったこともある、と。あれ、ボツになっちゃったんだけど、私はめげない。日々、相似形を求めて精進しているのである。その内、令和の観相師と呼ばれるかもしれない。

 あ、「観相師」というのは、ソン・ガンホ主演の韓国映画で、顔を見るだけで性格から寿命まで、その人のすべてを見抜く、まあ、占い師みたいなもん。朝鮮王朝の七代王に相応しい顔相を持つのは誰か、ソン・ガンホ演じる天才観相師の見立てが歴史を動かして行く……と、勝手に惹句を作ってみたが、これ、すごい傑作なんですよ。13年の製作だが、今現在となっては、韓国映画やドラマ好きが誰でも知っている大スターが総出演。首陽大君(スヤンテグン)を演じるイ・ジョンジェの悪役ぶりがセクシーで、後のヒット作「イカゲーム」なんて目じゃない存在感。彼は、一重瞼の傲岸不遜な役がよく似合う。「ハウスメイド」(60年の故キム・ギヨン監督作品「下女」のリメイク。11年日本公開)とか。メイド役のチョン・ドヨンが主人役のイ・ジョンジェの股間にブリーフ越しに鼻を押し付けて、ああ、いい匂いとか何とか洩らすのだが、その時の双方の表情が、下卑ていて、すごく良いのである。

 ……と、そんなふうに顔ばかりに注目している観相師な私であるが、最近、某BS局のドラマを観ていて気付いたのである。

 いつのまにか、江口洋介さんって、作家の椎名誠さんにそっくりになって来ていませんか? あの笑った時に刻まれる深い皺といい、なんかいつもモンゴルの草原を闊歩するような歩き方といい……いや、イメージね、単なる。モンゴルの草原って、闊歩が相応しい場所かどうか知らないんだけどさ。

 でも、似てる! まだ誰からも賛同は得られていないのであるが……あ、それと、もう一例。最近の久住昌之さん(「孤独のグルメ」の原作者)と、ミュージシャンのつのだ☆ひろさん。お二人共、年齢を重ねて、なごやかさを増した感が、そっくり……これも、まだ賛同は得られていないが……なんで? 皆、私の身になって……ではなく、目になって、見てみてくださいよ!

下卑た感じの「まあまあだね」

 顔は大事。いつも言ったり書いたりしているが、これは美醜とは、まったく関係のない価値観である。そして、それを表わす言葉も、しかり。たとえば、「美しい」というひとつの形容詞を使っても、そこには、こちらの感じ取ることの出来るニュアンスがいくつも生まれる。「ハウスメイド」でイ・ジョンジェが醸し出す「下卑た」感じは、私の好みのものであるが、新アメリカ大統領就任式で感じた「下卑た」感じは、私の最も嫌悪すべきものである。ふう、ようやく三カ月越しで、ここに辿り着いた!

 CNNのライヴ中継で、トランプ大統領就任式を全部観てしまったのだが、何度、他の局に変えようと思ったことか。でも、怖いもの見たさで、つい視線はTV画面に。

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source : 文藝春秋 2025年4月号

genre : エンタメ 政治 読書