ピーターはひとりで生きる

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 人が人に魅かれるのに男も女もない。私がそう胸を張って言えるようになったのは、母の言葉がきっかけでした。小学6年生の頃、気になる男の子がいて、同性愛の気があるかもしれないと、相談したのです。「ひょっとしたら自分はおかしいのかも」と思い詰めていた気持ちを、母は一笑に付しました。

「なに言ってんのよ、私は女形のあんたのお父さんと結婚したのよ。男が男を好きになったっていいじゃない。人が人を好きになるんだから」

 すごい人でしたね、いま考えると。うちのママは出来た人でした。父は女形で一世を風靡した上方舞吉村流家元の吉村雄輝。家には頻繁に歌舞伎役者が出入りし、女形が当たり前の環境で育ちました。男は男らしく、という家ではまったくなかったことが有難かった。私は私。ピーターISピーター。他の誰とも違う。そんな意識を幼い頃からごく自然に身に付けることができたのです。

40歳で東京を離れた ©文藝春秋

 恋愛にはもともと奥手というか、疎いのです。両親が離婚して母親に連れられ、移り住んだ鹿児島で男子校のラ・サール中学に入学します。当時は好きな女の子もいましたが、告白することはありませんでした。中学時代も恋愛の思い出は皆無。坊主っくりの田舎のガリ勉ばかりですから(笑)。女っぽい顔立ちの私は「おい、尼さん!」なんて呼ばれていました。丸坊主に下駄を履いて通学するようなバンカラ校でした。

 中学3年で家出して上京し、17歳でデビュー。「ピーター・パンみたい」と付けられたあだ名をそのまま芸名にしました。父は、長男である私に家を継がせることを諦めきれず、私も、家業を継ぐ上での「結婚」という選択肢が浮かんだことが一度だけありました。お相手は女優の仁科亜季子ちゃん。実は両家には因縁があり、アコのお父様、歌舞伎役者の岩井半四郎さんは若い頃、うちの母を父と取り合った恋敵だったのです。私が家出した当時、母が関係先に配った「手配写真」がアコの目に留まったのでした。東京で初めて会った時、「あの写真を見た時からお兄様のことが好きだったんです」と打ち明けてくれました。

 歌舞伎の家のお嬢様で、お母さまは松竹歌劇団。芸事をよくわかっている彼女が支えてくれるなら一番と、母も考えていたようです。当時の私はアイドル絶頂期。楽屋にこっそり出入りするアコの元には、ファンから剃刀の刃入りの手紙がたくさん届いたそうです。「お兄ちゃま、あの頃怖かったのよ」と聞いたのはずいぶん後になってから。縁談は彼女の芸能界入りで立ち消えになりましたが、私自身は、結婚したい気持ちなど本当はありませんでした。

男も女もなく

 人の気持ちや生き方を、どうして一括りにするの? 1億人いれば、1億通りの生き方が、あるはずなのに。男も女もなく、人間対人間で付き合えばいいじゃない?

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source : 文藝春秋 2023年7月号

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