十八代目中村勘三郎(当時・勘九郎)が、人に誘われて初めて太地喜和子の舞台を観たのは、文学座アトリエ公演、宮本研『櫻ふぶき日本の心中』。昭和50年夏、20歳の時だった。
この芝居は、3人の座頭と旅する鳥追い女(太地)が、女郎や、白痴みたいな女や、双子の兄とは知らずに愛する令嬢に転生し、座頭たちが転生した戦後の特攻崩れ、過激派学生、拳銃強盗をそれぞれ優しくいたわり、つきあって心中する話。
「とにかく素敵。チャーミング。色っぽくて可愛くて、その上ものすごくうまかった」
すっかり魅了された勘三郎は、二度目に一人で行き、最前列で喜和子さんと目が合う。熱に浮かされたように劇場を出ると、暗い物陰から血だらけの手がスッと伸びて、
「ねえ、ここで待っててね、すぐ着替えて来るから」
それからは急接近して、毎日のように逢瀬を重ねるまでになる。
2人の年齢差は、ひと回り違いの未(ひつじ)年同士。しかし一緒に観た映画『エーゲ海の旅情』が2人をさらに強く結びつけた。
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source : 文藝春秋 2023年7月号