中村勘三郎 彼からのトロフィー

100周年記念企画「100年の100人」

エンタメ 芸能
十八代目・中村勘三郎(1955~2012)は歌舞伎界の“風雲児”として「平成中村座」の創設やニューヨーク公演に挑戦した。役者仲間の大竹しのぶ氏が魅力を語る。
大竹しのぶ(中)①
 
大竹さん

 哲明のりあきさん(勘三郎の本名)と初めて共演したのが、舞台『若きハイデルベルヒ』(1977)。皇太子と酒場の娘が恋に落ちる話で、役に入り込んでしまったのか、とても私に良くしてくれました(笑)。

 休演日になると、としまえんや後楽園、浅草花やしきと、遊園地に連れて行ってくれたり。そのお礼に楽日(公演最終日)に私が花をプレゼントしたら、それを冷凍保存までしてくれたそうです。

 公演が終わるとすっかり目が覚め、当時お付き合いしていた彼女の元へ。後に好江ちゃんが言うには、2カ月間の稽古と公演の間に大竹に夢中になって彼女と疎遠になったそうですが、結局そこで別れることに。なので、好江ちゃんに半分冗談で感謝されるんです。だから私たちは結婚できましたと。

 本当に2人は素敵な夫婦です。アリゾナの別荘に遊びに行った時も楽しかったな。好江ちゃんが前の夜からおでんを煮込み、朝ご飯に茶飯を作ってくれたのに、哲明さんは寝室からパジャマのまま飛び出してくると、それをかき込みゴルフへ。その間わずか5分! びっくりしている私に好江ちゃんは「いつもこんななの」と笑っていました。

 遊びも仕事も一生懸命。芝居に全身全霊をささげた役者でした。

中村勘三郎
 
中村勘三郎

 舞台での彼はエネルギッシュであり、色気もあり、チャーミングで何とも言えない魅力がありました。そんな彼から褒められるのが本当に嬉しかった。『ルル』(1998)という芝居で、彼が楽屋に来て「本当にブラボーだった」と、涙ぐみながら握手をして、後日、ロサンゼルスのお土産物屋さんで買ったオスカー像の小さなトロフィーをくれたんです。どんなトロフィーよりも感激した。

 昔の歌舞伎小屋を再現したいと始めた「コクーン歌舞伎」。次々と話題作を生み、今も続いています。ある日、何人かで食事をした後、真夜中の劇場前で「新しい歌舞伎をやりたいんだ」と、目を輝かせながら話してくれたことを、昨日のことのように覚えています。

 現場のスタッフを大事にすることも人として尊敬していました。夫婦役で共演した大河ドラマ『元禄繚乱』(1999)の時は、美術さんや小道具さんと、彼らのスタッフルームで朝まで飲み明かし酔っぱらって……そのせいでその部屋飲みが禁止になったような(笑)。

 最後の共演となった舞台『桜姫』(2009)でも、セットを壊し片付けをするスタッフを気遣い、ハンバーガーを100個ほど買って深夜に一緒に差し入れをしたことがありました。

 そんな彼の最期はあまりにも辛く苦しいものでした。食道ガンの摘出手術後、肺炎を患い、闘病生活は4カ月に及びました。なんでこんなに人を幸せにしてきた彼が、こんなつらい目に遭わないといけないのかと、理解出来ませんでした。

 病室の壁には好きなご飯屋さんの店名を書き、みんなで希望が持てる様に励ましていましたが、いちばんの励みになったのはやはり芝居の話でした。

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source : 文藝春秋 2022年1月号

genre : エンタメ 芸能