2000年に介護保険制度ができたとき、やった! これはわたしのためにできたんだ、と思いました。それまで家族に頼れないおひとりさまは、最期は病院か施設の片隅でひとり寂しく、というのが相場でした。ですが他人様におすがりしてもよいという選択肢が登場したのです。
介護保険は利用者中心を謳っていますが、その実、家族介護の負担軽減が政策意図であり政策効果であったことは事実です。成立当初の高齢者の子との同居率は49.1%、夫婦世帯まで含めれば8割を超えていました。65歳以上の者のいる世帯のうち単身世帯は19.7%でした。それが2019年には28.8%と増加しました。
介護保険はもともと独居高齢者の在宅みとりを想定していませんでした。要介護度に応じた利用量上限を決めて、それ以上は出さない、と制限を置いています。独居の在宅みとりのためには、私費サービスが不可欠でお金のある高齢者にしか選択可能でないと批判を受けてきました。
ですが、この22年の介護保険の現場の進化は確実に選択肢を増やしました。通い、泊まり、訪問を可能にする小規模多機能型居宅介護や、それに看護がついた看多機(看護小規模多機能型居宅介護)、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など、高齢者の在宅を可能にする地域密着型のサービスメニューが増え、担い手たちの経験値が上がり、不可能が可能になりました。「ひとりで家で死ねますか?」と問いかけると、初期は「ご家族がいらっしゃらないと無理ですねえ」という答えだったのが、ここ数年、現場の答えが急速に変わってきました。「外野のノイズが少なければ少ないほどやりやすい」「ご本人が家にいたいという意思さえはっきりしていれば、わたしたちがお支えしてお見送りできます」という頼もしい答えを得ています。
年寄りを病院や施設に送るのは本人ではなく家族の判断。最期まで家にいたいと思えば、わたしのように家族の介入のないおひとりさまの方が、希望を実現できそうです。
また在宅みとりを支える訪問医や訪問看護師も各地に増えてきました。日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄さんは、こう書いておられます。
「小笠原内科での最近4年間の独居の在宅看取りの在宅医療費(医療保険+介護保険+自費)について調べたところ、一番費用が高くなる当月でもがん患者(43人)は約5万2000円、非がん患者(15人)は約3万2000円程度でした」(HHAニュースレター2022年1月号)。小笠原さんは「上野さん、ボク独居の在宅みとりの経験値が上がって、医療保険と介護保険の範囲内で、自費サービスなしで見送りができるようになった」ともおっしゃっています。
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