侍タイムスリッパーとの出会い

エンタメ 映画

 何処からお話しさせて頂いたら良いものか、わからないのですが……、というのもこの度この映画「侍タイムスリッパー」との出会い、安田淳一監督との出会いがあったのも、遡れば時代劇に初めて触れた時から始まっていたようにも思えるからです。

 僕は時代劇に救われました。俳優とは何をもって俳優とするか……今でもそこに悩みは尽きませんが、時代劇に触れ、所作というものがあり殺陣がある、学んで覚えれば少しずつでも前に進める、そう考えました。そして僕が師と仰ぐ藤田まことさんの主演舞台「剣客商売」で“山口馬木也の殺陣に一見の価値あり”という劇評が載りました。25年俳優をやらせて貰っていますが、常にこの言葉と、そのきっかけを与えてくれた時代劇に、藤田まことさんに、そして所作や殺陣を惜しみなく教え、伝えて下さった京都の方々に感謝しています。その先にこの映画との出会いがあります。

山口馬木也氏(事務所提供)

 この作品は、幕末に生きる侍が現代にタイムスリップし時代劇撮影所で斬られ役として生きていくという物語です。

 この脚本を初めて貰った時はただただ面白く一気に読み上げました。

 しかし何度も読み返すうちにこの高坂新左衛門という侍とあの頃の自分とを重ね合わせるようになりました。俳優という世界に足を踏み入れ、右も左も分からず、道に迷いながらも大勢の方に支えられ前に進んでゆく。そしてこの高坂新左衛門という侍も時空を超え京都の撮影所に迷い込み時代劇に助けられ、斬られ役として前に進んでゆく。この役との出会いに何か運命的なものを感じました。

 役づくりにおいては、自身の殺陣を改めて振り返り、このお侍さんの持つ威厳や風格、現代社会に適応しようとする苦悩、歴史的な背景などを表現しようと、色々時間を費やしました。しかし自主映画で時代劇という無謀な挑戦に映画は完成すら危ぶまれました。なんとかこの映画を、この高坂新左衛門を世に出したい、その一心で撮影場所の京都まで車を走らせたこともありました。

 娯楽作品ではありますが、この映画の結末を伝えなければならないという使命感もありました。僕が撮影に参加したのは約半年間ですが、安田監督が脚本を書き始め作品が出来るまでには実に7年かかりました。

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source : 文藝春秋 2025年5月号

genre : エンタメ 映画