2022年5月下旬、中川俊男日本医師会会長(当時)が訪ねた先は自民党元幹事長の二階俊博氏。退任理由を聞かれた中川氏はこう答えた。
「前任者です」
すると同席していた二階氏の側近、林幹雄氏が呆れた様子で呟いた。
「政治より怖いな」――。
病院による「カルテ開示」といえば、患者側が長年かけてやっと手に入れた権利だ。医療機関のカルテは、閲覧はおろか、手渡されることはほとんどない時代が続いていた。医療過誤訴訟の乱発を懸念した日本医師会(日医)が強硬に反対していたからだ。20年ほど前に開示が制度化されたが、日医の指針では、いまでも裁判を前提とした開示は「範囲外」と除外している。
カルテだけではない。いまは当たり前のように受け取ることができる診療報酬明細書(レセプト)の開示、街のあちこちに置かれているAED(自動体外式除細動器)の普及に反対してきたのも日医だ。その他にも医療の基本となるインフォームド・コンセントの法制化や医師免許更新制度にも抵抗してきた。日医を取材して15年以上が経つが、日医幹部が「国民医療を守るため」を繰り返すたびにしらけた思いが込み上げてくる。国民の利益よりも医師の特権や利権を最優先する日医の姿をみてきたからだ。
もちろん日医の幹部一人ひとりには、国民医療を守る使命感があると信じている。にもかかわらず、それを果たせないのは、なぜなのか。
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source : 文藝春秋 2023年2月号