近年、AI技術の発展が著しい。日常会話レベルだった機械翻訳が、論文執筆の「相棒」として活躍している。AIに無縁とされてきたアートの分野でも目を見張る進化を遂げている。歌人の俵万智氏を真似た歌を詠んで本人を驚かせたり、ドナルド・トランプ氏の肖像を、ゴッホ風、ピカソ風に描き分けたりする。
コロナ禍をきっかけにDX(デジタルトランスフォーメーション)も加速。冷凍食品大手の食品工場では、画像認識を搭載したロボットが鶏肉の小骨を取り除き、空港のカウンター業務は大幅にロボット化された。
シンギュラリティが到来し、人が労働から解放されたかというとそうではない。介護や原発廃炉作業、コールセンターの苦情処理など肉体的・精神的にきつい仕事は相変わらず人間が担う。しかも、低賃金で。一方、DXを駆使する企業は余剰人員を雇用することなく生産性を上げ、トップエンジニアの年収は優に数千万円に達する。DXで仕事を奪われた人は、苛酷な低賃金労働に就くか失業かを迫られる。AIがもたらす労働格差は深刻だ。これこそ、私が2010年に『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)で予想した「ホワイトカラーの50%が機械によって代替される」未来であり、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」を通じて警告したかったことだ。
技術革新により人間に求められるスキルが変容した時、残された選択肢は二つしかない。ひとつは労働市場からの退場で、もうひとつは「学び直し」(リスキリング)による労働市場への適応だ。
今やリスキリングの教材はネット上にいくらでも転がる。アメリカの一流大学の教授陣による講義や講義ノートでさえ無料配信されている。実際、かつてならば修士課程で学ぶような知識やスキルを、学部の1、2年生で習得する東大生は珍しくない。一方、これだけお膳立てされても学べない人がいる。なぜだろう。
答えはシンプルだ。多くの人が、「自学自習するスキル」を身に付けないまま成人しているのである。
自学自習のためのコンテンツは「図表入りの説明文」で書かれ、講じられる。よって、「説明文を読み解く力」が自学自習の基礎となる。我々は、主として教科書や新聞を出典とする200字程度の短い説明文を正確に読み解く力を診断する「リーディングスキルテスト」を開発し、これまで小学5年生から一流企業の社員まで26万人が受検した。そのデータを分析して驚いた。
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source : 文藝春秋 2023年2月号