教授クラスの女性研究者があまりに少ないことは、科学報道に携わる中でずっと気にかかっていた。
東北大学の梅津理恵教授(当時は准教授)が2019年、優れた女性科学者に贈られる猿橋賞の受賞会見で「正直なところ、女性の後輩にこういう道(研究職)を100%の気持ちで勧めるのはためらわれる」と述べたのを知った時、事態の深刻さを改めて認識した。女性研究者が少ないのは自由な選択の結果ではない。研究を続けにくい環境のせいなのだ。
男女共同参画白書によると、大学や企業、公的機関などで働く日本の女性研究者の割合は17.5%(2021年3月現在)。OECD諸国の多くの国が30%を上回る中、とりわけ低い数字だ。特に工学と理学での低さが際立っている。
大学では企業に比べ女性の比率が高いものの、問題なのは職位が上がるほど割合が低くなっていくことだ。例えば理学では、助手こそ女性が36.2%を占めるが、助教16.4%、講師16%、准教授10.4%と減っていき、教授等(副学長、学長を含む)になると6.2%だ。工学の教授等はわずか3.7%(いずれも19年度)。女性研究者にとって大学で「生き残る」のがいかに難しいことかがよくわかる。
上位職ほど女性が少なくなる現象は米国など海外でも見られ、「リーキー・パイプ(水漏れパイプ)」と呼ばれる。だが女性の母数が少ない日本では、教授の少なさがより際立つ。
前述の梅津教授も、東北大学金属材料研究所の100年以上の歴史で初の女性教授だ。29歳で結婚し、現在は高校生と大学生の3人の子を産み育てながら研究を続けてきた。出産・育児は、博士号を取り立ての若手研究者として業績を積んでいく時期と重なった。「男性が研究に邁進しているのに、自分は一定の時間を家事と育児に割かなければならない。100%の力を向けられずに研究を続けていいのかと、いつも負い目を感じていた」と当時を振り返る。
それでも梅津教授は「自分は恵まれていた」と語る。家族の理解やサポートがあった上に、生活の拠点を変えずに仕事を続けてこられたからだ。育児や親の介護、単身赴任などの事情で、多くの女性が研究を断念するのを見聞きしてきたという。
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