著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、泉房穂さん(弁護士・社会福祉士・前明石市長)です。
親に「ありがとう」なんか言うもんじゃない。親が子どものために頑張るのは当たり前のことで、感謝されるようなことじゃない。もしそんな気持ちがあるなら、胸の奥にとっておいて、自分の子どものためにしてやれ。
子どものころに言われたオヤジの言葉が今も心に残っている。
オヤジは代々漁師の家に生まれたが、家は貧しく、戦争で兄三人が亡くなったこともあり、小学校を卒業してすぐに漁に出た。三軒隣りの漁師の娘と結婚して生まれたのが、この私だ。四つ下の弟は生まれながらの障害で、おふくろが無理心中を図ろうとしたこともあり、今から思えばそれなりに大変だった。それをオヤジが必死に働き、必死に支えてきた。
オヤジは午前二時過ぎから漁に出て、昼過ぎにいったん帰ってきて弟をリハビリに連れて行き、夕方は私のキャッチボールの相手をしてくれた。
「ワシのしたいことは、おまえらのしたいことをさせることや」と、笑いながら言っていたのも、よく覚えている。
そのオヤジに一度だけ謝られたことがある。二十歳の頃、政治家になりたいと話したときのことだ。「おまえが世の中を変えたい気持ちはわかるが、ワシには金も力もない。おまえを政治家にしてやることはできん」と謝られた。それに対して「金も力もいらん。語る言葉と気持ちがあったら十分や。オヤジは関係ない」と言い返したのは、四十年前のこと。
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