高市を心変わりさせたのは予算委員会への不安だった
通常国会の冒頭解散案は、昨年12月に浮上し、消えたはずだった。
国民民主党が賛成を明言して、来年度予算の年度内成立のめどがたった2025年の年の瀬、当面は政権の安定が約束されたかに見えた。しかし、総理大臣・高市早苗の心のうちはどこか晴れなかった。
高市は自民党総裁選で勝利するも公明党が連立離脱。日本維新の会と連立を組むことでなんとか総理大臣に指名された。強い政権基盤を築くには、やはり解散総選挙に打って出て国民の信任を得る必要があるとの思いを、拭い去れなかったからだ。師と仰ぐ安倍晋三が7年8カ月にわたって政権を維持できたのは、解散戦略に長けていたからに他ならない。ただ自民は昨年7月の参院選後、石破おろしと総裁選で3カ月もの政治空白を作っていた。まずは臨時国会で物価高対策としてガソリン税の暫定税率廃止と補正予算を成立させる必要があった。
臨時国会の後、安倍政権で首席秘書官を務めた内閣官房参与の今井尚哉ら側近は高市に進言した。
「もし国民民主との三党連立が成立したら、総選挙の勝敗ラインは『三党で過半数』になる。となると総理が目指す自民単独過半数は狙いにくくなる。もし選挙に打って出るなら、その前がいい。1月16日に通常国会を召集して冒頭解散すれば、1月20日公示、2月1日投開票が可能。これなら来年度予算を年度内に成立させられる。解散宣言から投票日まで通例4週間は必要なので、1月5日の年頭会見で宣言するスケジュールでどうですか」
高市の心は揺れた。党では副総裁の麻生太郎や幹事長代行の萩生田光一が三党連立を目指して汗をかいている。麻生は周囲に息巻いていた。
「連立拡大で衆参過半数をとる。そして高市がやりたい政策を実現して、解散は27年がいいだろう。そこで勝てば、その年9月の総裁選を無投票で乗り切れる」

早期解散に踏み切れば、麻生たちの思いを踏みにじることになる。高市は冒頭解散のシナリオを封印し、国会召集日を1週間後ろ倒しして1月23日に決めた。
「予算委員長を替えられないの?」
しかし逡巡は続いていた。自民は年明け1月3、4日の両日、改めて選挙情勢調査を行った。その結果、自民は60議席以上増やす260。立憲民主党は70まで半減するとの結果だった。単独過半数どころか自民で安定多数を取れる。あとは参議院で過半数を確保できればいい。
さらに、高市には目障りな存在がいた。衆議院予算委員長を務める立民の枝野幸男だ。枝野は石破政権で委員長だった安住淳と違い、野党らしく高市に厳しかった。野党側が指名すれば、すべて高市に答弁を求めた。臨時国会で委員長の指名に逆らって答弁を強行しようとした外相の茂木敏充に「指名しておりません!一旦下がってください!」と声を荒げる場面もあった。高市は辟易する思いを周囲に何度もこぼした。
「予算委員長を替えられないの?」
しかし与党で安定多数を確保できなければ、委員長ポストを野党に振り分けざるを得ない。後日、解散表明の会見で高市は衆参本会議や予算委員会の審議に対応する中で、「不安定な日本政治の現状、永田町の厳しい現実を痛いほど実感した」と率直に語った。通常国会では予算委員会で何度も答弁に立たされるだろう。内政、外交のみならず、自らの政治資金問題への追及も必至の状況で、予算委員長を替えたいとの思いも強くなっていた。

そんな中、所得税の課税最低限の178万円までの引き上げを「ミッションコンプリート!」とはしゃいでいた国民民主代表の玉木雄一郎が態度を変えた。玉木は連立政権入りどころか、またも政策要求を吊り上げたのだ。玉木は昨年末、自動車の自賠責保険から一般会計に繰り入れていた運用益の一部の一括返還を要求して勝ち取っていたが、年が明けると、自賠責保険料そのものを引き下げるように求めてきたのだ。1月9日に玉木は金融相の片山さつきと会談し要求を伝えたが、片山は回答を保留した。
また、赤字国債を発行するための特例公債法改正案にも言及した。政府は予算執行の停滞を防ぐため5年間一括で承認する改正案を提出するが、市場の信認を得るために、1年ごとに戻すことを提案したのだ。
これらの新たな要求は、高市や官房長官の木原稔を苛立たせた。
「まだそんな要求をしてくるのか。おかわりもたいがいにして欲しい」
一方、連立を組む日本維新の会も、昨年の臨時国会から先送りになっている議員定数削減や、本丸と位置付ける副首都構想の顛末によっては連立離脱も辞さないだろう。高市の脳裏に、通常国会に突入することへの不安が急速に広がった。
電光石火の解散準備
高市は、今から通常国会冒頭の解散に踏み切れないか、木原や今井ら、ごく一部の側近に尋ねた。
「できなくはありませんが、本予算の年度内成立は無理です。暫定予算の期間をなるべく短くするためには、時間がありません」
そこから、首相側近らは、電光石火の動きを見せた。1月9日夜、読売新聞がオンラインで第一報を配信した。
「首相、衆院解散検討」
朝刊に見出しが躍った翌10日、間髪を入れず総務省が全国の選挙管理委員会に向けて通達を出した。
「衆議院議員総選挙については、報道以上の情報はありませんが、報道の情報の中で最速の日程となることも念頭に置き、各種スケジュールの確認や業者との調整を含めできる準備を進めておく必要があります」
報道を根拠とした異例の通達で、1月23日冒頭解散、2月8日総選挙に向けて一気に動き出した。

各所への調整や連絡は完全に後回しとなった。高市の根回し下手は党内で知られているが、党幹事長の鈴木俊一や萩生田のみならず、高市総裁誕生の立役者である麻生にも寝耳に水だった。麻生周辺は憤った。
「連立拡大に汗をかいている麻生さんに、冷や水を浴びせる行動だ。一言あって然るべきだ」
地元福岡で記者から解散について問われた麻生はこう言い放った。
「ないでしょうね」
しかし麻生は、高市から直接連絡を受けると、矛を収めた。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2026年3月号

