高市早苗内閣は、11月21日に物価高対策を盛り込んだ経済対策を閣議決定したが、それまでに連立相手の日本維新の会と一悶着があった。維新は連立前から給付金案の廃止を唱えており、連立政権合意文書にも盛り込ませた。これに代わる措置が電気・ガス代の補助なのだが、当初の案では厳冬期に平均的な家庭で月1000円程度と少額。これに維新では不満が渦巻いていた。
11月11日夕方、首相官邸で高市はテレビカメラを前に、維新の共同代表・藤田文武から神妙な面持ちで総合経済対策の提言書を受け取った。直後、メディアを排した執務室に入るや、藤田は強く訴えた。
「総理、この額だと1人2万円の給付金をやめた代替にはなりませんよ。もっと引き上げられませんか」
高市はにこやかだった表情を一変させて、左にいた維新の国対委員長にして首相補佐官の遠藤敬を指差しながら言い放った。
「コイツに全部任せてるから、各役所を回って調整してもらえばいいんです。補佐官の言っていることは私の言葉ですからね」
この言葉に、政務担当秘書官の飯田祐二、財務省出身秘書官の吉野維一郎らが「エッ!」と反応し、後には引きつった笑いが広がった。当の遠藤は「総理、それは言い過ぎですよ。矩(のり)をこえたご発言かと……」と取り繕ったが、凍りついた空気は変わる由もなかった。

だが、高市の言葉には本政権の権力構造が象徴されていた。連立協議の段階から高市は遠藤に「私を支えるポジションに就いてほしい」と求めた。つまり、連立合意と遠藤の首相補佐官起用はワンセットだ。
案の定、政府は電気・ガス代の補助を3カ月で1世帯7000円程度とすることで決着。経済対策全体の規模も、補正予算の一般会計歳出で13.9兆円だった前年度を上回り、減税分を含めて21兆円規模に膨れ上がった。
当の遠藤は補佐官に就任したものの、首相官邸には必要最低限の時にしか姿を見せない。立派な専用執務室があるにもかかわらず、である。「ずっと官邸にいると、情報が入りにくくなる。永田町の空気ばかりか、世論の風も読めなくなってしまいかねない」とは本人の弁だ。
もはや遠藤は“影の総理”
遠藤は衆院第一議員会館の事務所を拠点にする。財務省、総務省、警察庁からは、将来の事務次官級のエースが秘書官として投入され、彼らも同事務所で執務に当たっている。そのため遠藤事務所は、首相官邸をも凌ぐ繁盛ぶり。政治家、官僚、記者たちがひっきりなしに訪れて、お茶出しもままならないため、コーヒーサーバーを導入したほどだ。人呼んで「カフェ遠藤」である。
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