皇室広報が本格スタート ネット時代に相応しい「発信」を

宮内庁ホームページが大改修

山下 晋司 元宮内庁職員
ニュース 社会 皇室

 2025年度の「宮内庁概算要求の概要」に、思わず目を留める文言があった。「国民に開かれた皇室の推進」と書かれていたのである。「開かれた皇室」とは、メディアではよく使われる表現だが、これはマスコミが作ったものであり、皇室の方々や宮内庁で言う者はいなかった。宮内庁が公式文書でこの表現を使うようになったことに隔世の感があったのだ。

 新しい三の丸尚蔵館は2025年度末に完成し、それに合わせて皇居東御苑の大手休憩所にカフェが設置されるなど、今後一層、皇室の関連施設が国民に開かれたものになっていくことが期待されている。とりわけ筆者が注目するのは、宮内庁ホームページの大改修だ。

 宮内庁ホームページは、1999年に作られた。四半世紀以上前の仕様はすでに古臭く、時代にあったものにする必要がある。宮内庁は改修に先駆け、2023年4月に広報室を新設した。民間からも人材を募って5名増員し、もともと官房総務課報道室で広報を担当していた5名も加えると広報室は10名となったが、2025年度さらに3名の増員を予定している。

 これで報道・広報に携わる職員は20名以上と、平成初頭の約3倍の規模になる。広報体制が整う2025年は皇室広報の本格的なスタートの年になるとともに、天皇皇后両陛下、秋篠宮同妃両殿下、そして宮内庁の広報に対する姿勢が鮮明になるだろう。

 宮内庁が広報室を設置してちょうど1年となる2024年4月に、インスタグラムを開設したことは記憶に新しい。天皇皇后両陛下のご活動や伝統文化などを写真や動画で発信し、約180万人がフォローしており、まずまずのスタートと言える。

新年の一般参賀にて(2025年) ©JMPA

上皇后の悲しみと戸惑い

 宮内庁が報道・広報の在り方に大きな変革を迫られたきっかけは1993年に起こった当時の皇后(現・上皇后)に対する雑誌記事によるバッシングである。筆者が宮内庁の報道担当になったのは1988年だが、当時の宮内庁は“広報せず”が基本スタンスだった。新聞・通信、テレビが加盟している宮内記者会を中心とした報道機関への対応が主たる業務であり、積極的に打って出る広報係はなかった。当時も雑誌には事実無根の記事はたくさんあったが、ほとんど対応はしていない。平成になり、被災地訪問に象徴されるように天皇皇后の活動内容が昭和時代から大きく変わった。これらの新しい活動は国民からは絶大な支持を得たが、天皇の在り方は昭和天皇のお姿が正しいと考えていた人たちは新しい天皇皇后の活動を批判的な目で見ていた。その燻ぶった感情が、雑誌の記事として表に出てきたと考えられる。

 誕生日当日に倒れた皇后は声を失った。皇后自身はバッシングに対して「事実でない報道には、大きな悲しみと戸惑いを覚えます」、「幾つかの事例についてだけでも、関係者の説明がなされ、人々の納得を得られれば幸せに思います」と文書で真情を吐露した。国会においても宮内庁のこれまでの対応が批判され、結果、報道体制強化のために、翌年総務課内に報道室を新設した。新設といっても、増員は報道室長ひとりだけ。このころからインターネットが広がり始め、宮内庁においてもホームページ開設を視野に入れて、1996年には広報係が新設された。このときの増員も係長1名だけ。そして1999年、ホームページ開設。その後、少しずつ増員され現在のような大きな組織になった。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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