いつまでも健康な体でいたい、できれば医者や薬には頼らず過ごしたい――とは、誰もが願うことだろう。しかし2024年3月に発覚した紅麹サプリ事件は、この思いに冷水を浴びせかけるものになった。小林製薬が発売していたサプリメント「紅麹コレステヘルプ」を服用した5人が死亡、延べ240人以上が入院するという大きな健康被害が生じたのだ。同社ウェブサイトによれば、紅麹サプリ摂取との関連を調査中の死亡者が122人いるとされており、被害者数はさらに増える可能性がある。
この製品は、商品名が示す通り悪玉コレステロール低下を目的としたサプリメントであった。紅麹は、米などにベニコウジカビを繁殖させたもので、古くから食材及び着色料として利用されてきた。しかし1979年、コレステロールの合成を妨げる成分(モナコリンK)を、このベニコウジカビが作っていることが判明し、米国などではこの成分は医薬として承認されている。「紅麹コレステヘルプ」は、このモナコリンKを機能性成分とするサプリであったわけだ。

その紅麹サプリが、突然に大きな健康被害を出すことになったのはなぜか。その後の調査で、プベルル酸という物質が原因であることがほぼ確定した。プベルル酸は強い腎毒性を示すことが動物実験で確認されており、被害者の症状とも一致する。この物質を作り出していたのは、紅麹の培養過程で混入した青カビの一種と見られる。小林製薬の関係者からは、紅麹の培養タンクの蓋の内側に青カビが付着していたとの証言があったという。この関係者が品質管理担当者に報告したところ「青カビはある程度は混じることがある」と返答され、対策はなされなかった。しかし、カビ類が時に強力な毒素を生産することがあるのは、微生物の専門家ならずともよく知られたことだ。小林製薬の対応は、あまりにずさんだったと言わざるを得ない。
医薬品製造においてはGMPという基準があり、製造手順や品質管理において非常に厳しい規制が課されている。しかしサプリ類においてはGMP準拠は「強く推奨」されるのみであり、義務ではない。紅麹の製造工場も、医薬に準ずる成分を含んでいるにもかかわらず、GMP認証を取得していなかった。このあたりは、見直しがなされるべきだろう。
健康被害を出した健康食品やサプリメントは、決して紅麹だけではない。プエラリア・ミリフィカという植物由来のサプリは、スタイルがよくなるという触れ込みで若い女性の人気を集めたが、下痢などの消化器障害、じんましんや月経不順などの症状を訴える人が続出して問題となった。ウコンは肝臓によいというイメージが持たれるが、過剰摂取すればかえって肝障害を引き起こし、死亡例さえ報告されている。米国ではダイエットサプリによる被害が多く、2003年にはエフェドリンを含むサプリで100名以上の死者が出た。個人輸入によってこうしたサプリや健康食品は国内にも入ってきており、事故は後を絶たない。
もちろん、健康被害を出すような製品はごく一部ではある。では効能の方はどうかといえば、残念ながら本当に摂取すべきと薦められるようなものは、そう多くない。現代の日本で通常の食生活をしている限り、何らかの栄養が不足することはまずないといえる。ビタミンなども、大量に摂取すればするほどよいというものではない。たとえばビタミンAの摂りすぎは、頭痛や骨の脆弱化を引き起こすことが知られている。
蔓延している不正行為
盛んに広告されているコンドロイチンのサプリは、厚労省のサイト「eJIM」で「変形性膝関節症または変形性股関節症の痛みに有効ではないことが研究結果から示唆されています」と一刀両断にされている。健康食品の効能や安全性について本当のところを知りたければ、こうしたサイトを参照するのがよい。
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