アメリカ、イスラエルによるイラン攻撃に端を発した世界的なエネルギー危機は日本経済を直撃した。資源高により世界経済は大きな転換期を迎え、各国が国家戦略の大きな見直しを迫られるなか、資源小国日本はいかなる針路を取るべきか。BNPパリバ証券チーフエコノミストで東京大学先端科学技術センター客員教授の河野龍太郎氏と、ポスト石油戦略研究所代表でエネルギーアナリストの大場紀章氏が、危機下の世界に潜む“日本の死角”を語り合った。
河野 アメリカとイランのホルムズ海峡を巡る攻防が混迷を極めています。イランの海峡封鎖に続き、アメリカによる海峡“逆封鎖”がはじまり、まさに一寸先は闇です。
大場 逆封鎖は驚きました。さすがに、この一手は読めません。
河野 次の展開も非常に読みづらいことは承知のうえで、大場さんは現状をどう分析していますか。
大場 まず、原油の価格について説明しておくと、4月7日にアメリカとイランの間で2週間の停戦合意がなされた後、一旦原油価格は下落しました。これはマーケットの勇み足で、実態は何も変わっていないのに、期待だけで下がってしまった。本当の下落は実際にタンカーの運航が平常通りに再開できる見通しが立った時にはじめて起こります。逆に、長期化するとマーケットが判断すれば、再度価格が上昇する可能性も十分あります。日本は備蓄に比較的余裕がありますが、今後、東南アジアで供給途絶になる国も出てくれば、各国で資源を融通し合う「相互融通」のフェーズに入り、原油価格はさらに上がると見ています。
河野 そもそも中東危機が起こる前は、世界経済も日本経済も、非常に良好な状態にありました。
昨年4月のトランプ関税は、懸念されていた景気悪化を招きませんでした。理由は、各国の輸出企業が関税分を価格に転嫁せず事業者が負担したことや、世界的なAIブームの再加速を受けた設備投資や個人消費の拡大、そして各国がトランプ関税を念頭に景気刺激的な財政・金融政策をとりショックを吸収して、実体経済を下支えしたことなどが挙げられます。日本国内に目を向けても、昨年来の食品価格の上昇が一服して、インフレ率も下がり、高めの賃上げと相まって、長年、物価高で低迷していた実質賃金もようやくプラスに転じつつありました。その矢先に中東危機がやってきた構図です。

突然の三重苦
大場 実は、原油価格も下落基調にあったのですが、あっという間に景色が一変しました。
輸入国にとっては、三つの不幸が重なっています。急激な資源高に加え、有事のドル買いによるドル高、そしてそれに伴う物価上昇です。極めて厄介な三重構造のインフレに追い込まれつつありますね。
河野 その通りです。輸入国は産油国への巨額の所得移転を強いられ、貿易収支悪化が通貨安を招き、悪影響を増幅します。一方、今回の中東危機を招いた張本人であるアメリカは産油国ですから、ガソリン価格が家計にダメージを与えるとはいえ、一国全体では原油高は貿易収支の改善をもたらすプラス要因です。
大場 日本をはじめとする輸入国は、目下の経済状況の悪化を防ぐためには、利上げ以外に手の打ちようがない状況に追い込まれてしまった、と見ていいのでしょうか。
河野 日本銀行やECB(欧州中央銀行)が利上げモードに入るのは時間の問題でしょう。通常、中央銀行は供給制約による資源高には“ルックスルー”、つまり何もしないのが基本です。利上げを行ったところで資源高の原因である供給制約を解消できないからです。ただ、今回はコロナ禍からトランプ関税へと続く状況で、各国は拡張財政を繰り返し、中東危機以前からインフレ気味ですから、初期条件は異なります。
あとエネルギー構造が全く違うので、単純な比較はできませんが、今回の危機が第一次オイルショックに匹敵するインパクトをもたらす可能性も巷間指摘されています。
大場 石油供給の途絶規模という点に限れば、オイルショックの5倍くらいの大きさだと思います。
河野 当時、ホルムズ海峡は封鎖されず、物理的な物流の遮断は行われていませんからね。欧米には禁輸措置が取られましたが、日本には中東から原油が入っていました。
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