サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
1枚の紙を折り込んでいくことで、動物や花などの形を作り上げる──。日本の伝統文化である折り紙は、今や世界で親しまれており、多くの国で「origami」の語が通用するようになっている。
近年では、科学分野でも折り紙の存在感が高まっている。三浦公亮(こうりょう)氏(東京大学名誉教授)が考案した「ミウラ折り」は、代表的なものの一つだ。地図など大きな紙を折りたたむ際、通常の折り方では角が破れてしまいやすいが、このミウラ折りでは紙にかかる負担が最小限で済むため、破れにくい。この折り方は、宇宙船に積まれた太陽光パネルの折りたたみ法にも適用され、成果を上げている。また、蝶が羽化する前の翅のたたみ方にも、ミウラ折り構造をとるものがあるという。
内側から血管を広げ、血流を保つ医療器具であるステントにも、折り紙の原理を利用したものが考えられている。小さく折りたたんだステントを、血管内の必要な場所に挿入した上で広げる仕組みになっており、細い血管からでも送り込みやすいのだ。
近年脚光を浴びているのが、カリフォルニア工科大学のチームが開発した「DNA折り紙」という技術だ。DNAはよく知られている通り、細胞核の中にあって生命の遺伝情報の貯蔵庫としての役割を果たしている。しかし彼らはDNAを、様々な形状を作り出すための素材と捉えたのだ。確かにDNAは、直径50万分の1ミリメートルの二重らせんであり、極めて安定な構造だ。しかも、好きなところで切断したり、つなぎ合わせたり、望む配列のものを合成したりという技術も確立しているから、極小サイズの造形材料として非常に魅力的といえる。
紐状のDNAを一筆書きのように折りたたむことで、ナノメートルサイズの星型やスマイルマーク、立方体の箱などが作り出された。またDNAで作られた容器で、薬物を患部まで輸送する研究もある。分子ロボットや分子コンピュータなども研究されており、その可能性はまだまだ広がりそうだ。
ところでこのDNA折り紙、紐状のDNAを折りたたんでいるのだから、折り紙のイメージにはもう一つそぐわず、あやとりの方が近い気もする。聞いたところによれば、命名した研究者は「日本の研究者には必ずそれを言われるんだ」とこぼしているらしい。印象的かつ的確な命名は、なかなか難しいもののようだ。
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