サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
金の価格が高騰を続けており、今年ついに1グラムあたり1万5000円を突破した。2000年ごろの実に15倍に達しているというから、あのころ買っておけばと思うが後の祭りだ。「有事の金」といわれる通り、不安定な国際情勢が高騰の要因なのだろう。
では、最も高価な元素は何だろうか。これは簡単には答えられない質問だ。たとえば木炭とダイヤモンドは同じ炭素からできているが、価格は天と地ほども違う。また、1カラットのダイヤは0.5カラットのダイヤの2倍よりはるかに高価であり、単純にグラムあたりいくらという価格をつけられない。
こうしたところを除き、最も高価な元素とされているのは、カリホルニウムという聞き慣れない金属だ。自然界には存在せず、原子核反応によって人工的に合成するしかないため、製造に恐ろしくコストがかかる。用途は原子炉の反応開始剤など極めて特殊なものに限られ、一般に流通しているようなものではない。このためはっきりした価格はつけられないが、一説には1グラムあたり2700万ドルともいわれる。
天然に存在する元素としては、フランシウムが最も希少といわれる。他の放射性元素の崩壊によって生成するが、極めて不安定であるため、わずか22分という半減期で次々に崩壊していく。このため地球全体で20グラムほどしかなく、たとえこれをかき集めてきても数時間で失われてしまうという、まるで幻のような元素なのだ。ただし研究用以外の用途はなく、価格はつけようがない。
この他にも、金よりも貴重な元素はいくらでもある。しかし、金よりも高価な元素は数えるほどだ。パラジウムは金よりも存在量が少なく、排ガス浄化触媒など多くの使途があるが、価格は金よりはるかに安い。白金の埋蔵量は金の3分の1程度と見られるが、現在の価格はグラム5000円前後に過ぎない。貴金属と呼ばれるもののうち、金よりも高価なのは、ロジウムやイリジウムなど極めて希少なものに限られる。
希少さでも、実用的な用途でも劣り、ただ金色に美しく輝くだけが取り柄の金が、かくももてはやされるのも考えてみれば不思議な話だ。もし銅が金と同じほど希少であったら、もし緑や青に輝く貴金属があったなら。人類の歴史はいったいどう変わっていたのか、時々考えてしまう。
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