サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
水分、脂質、糖質、ミネラルなど、我々の体は数多くの成分で構成されている。それらの中で、生命活動にとって最も重要な物質は何か。その答えはタンパク質だ。英語名であるプロテインは、ギリシャ語の「最も大切なもの」を意味する言葉から来ているが、タンパク質の能力はその名に恥じない。
タンパク質は体内で具体的に何をしているのか? その答えは「ありとあらゆること」だ。食べ物を消化分解するのもタンパク質だし、糖分や脂肪を作り出すのもタンパク質の仕事だ。筋肉や骨、皮膚の主成分はタンパク質だし、血液中で酸素を運ぶのも、血圧を上げる指令を受けるのも、体外から侵入してきた病原体を撃退するのも、全てタンパク質がやってのける。体内では、このように様々な機能に特化したタンパク質が働いており、その種類は約10万種にも及んでいる。
その仕事ぶりも素晴らしいもので、たとえばDNA合成酵素というタンパク質は、1秒当たり数百個ものパーツを連結させ、あの美しい二重らせん構造を超高速で構築する。さらに、複製したDNAにミスがないかを点検し、間違いがあれば修正まで行う。ミスが起きる確率はわずか約1000万分の1というから、精度の点で人類の作り出した機械はとうてい太刀打ちできない。
さてそのタンパク質とはそもそも何か。実は、アミノ酸というパーツが数百個程度一列につながっただけのものだ。アミノ酸は少しずつ構造の違うものが20種あり、その配列によって多様な機能や形状を持ったタンパク質群が生まれる。
生命というものは知れば知るほど驚きに満ちているが、実のところ最大の驚異といえるのは「アミノ酸はたった20種」という点ではないかと思う。生命の働きの大半を担う、超精密な10万種ものバイオマシンが、たった20種のパーツの組み合わせでできている。知識として知ってはいても、感覚的にどうしても信じがたいのだ。
かくも高性能なタンパク質であるから、可能性は無限ともいえる。例えば、二酸化炭素から食品を作るというような、望みの機能を持たせたタンパク質を一から設計することができればまさに革命的だが、残念ながら現在の科学では実現にはほど遠い。我々は身近な物質であるタンパク質の恐るべき潜在能力を、まだまだ引き出しきれていないのだ。
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