サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
筆者が少年時代に読んだ、21世紀を舞台としたSFマンガには、「木星に行って1ダースの月をぜひ見たい」というセリフがあったと記憶する。実際に21世紀を迎えた現在、木星への観光旅行は残念ながら実現していないが、木星の月(衛星)は1ダースどころか95個にまで増えた。土星の衛星はこれを上回る146個、太陽系の8惑星全てを合わせれば、今や288個もの衛星が確認されている。
月以外の衛星が初めて発見されたのは1610年、かのガリレオ・ガリレイによってであった。ガリレオは手製の望遠鏡で4つの天体を発見し、これらが木星の周囲を回っていることを確認した。太陽の周りを回っているはずの木星に、振り切られることなく衛星が周回しているという事実は、地動説の強力な傍証となった。ガリレオ衛星の発見は、人類の世界観に大きな影響を与える、偉大な成果であったのだ。
その後、望遠鏡の性能が上がるにつれ、各惑星に次々と衛星が発見されていった。木星の衛星にはギリシャ神話の主神ゼウス(ローマ神話ではユピテル)の愛した女性や美少年、子孫たちの名が、土星の衛星にはギリシャ神話の巨人族などの名がそれぞれ与えられている。天王星の衛星だけは、シェイクスピアやポープの作品の登場人物から採られており、オフィーリアやジュリエットという衛星も存在する。
近年では探査機による近距離からの撮影が行われ、今まで知られていなかった衛星たちの素顔が明らかになってきた。木星の衛星イオには数百もの火山が存在するし、土星の衛星タイタンにはメタン(天然ガスの成分)の雨が降り、川が流れている。同じく土星の衛星ミマスの表面には直径の約3分の1に及ぶ巨大クレーターがあり、「スター・ウォーズ」に登場するデス・スターそっくりだ。
天文ファンの関心を集めるのは、木星の衛星エウロパと土星の衛星エンケラドスだ。これらの表面を覆う厚い氷の底には、大量の水が存在している証拠がある。熱源の存在も確認されているから、そこには生命が発生する可能性があり、地球外生命体を探す際の最有力候補とされているのだ。
かくもバラエティに富んだ衛星たちの世界だが、残念ながら人類は288ある衛星のうち、まだたった一つを踏んだのみだ。21世紀のうちに、人類は次の衛星に足跡を残すことができるだろうか。
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