カノープスの見える北限

数字の科学

佐藤 健太郎 サイエンスライター
エンタメ サイエンス

サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します

 冬は最も多くの一等星が見える季節であり、澄んだ夜空に数々の星が光輝を競い合う。中でも最も明るいのがおおいぬ座のシリウスであることは、よく知られているだろう。では2番目は何かといえば、りゅうこつ座のカノープスという星だ。光度はマイナス0.7等級にも及び、並みの一等星の5倍近い明るさを誇る。

 だが、アルタイルやベテルギウスなら聞いたことがあるが、カノープスなどという星は初耳だという方が多いのではないだろうか。それもそのはずで、この星は南の空低くに位置しており、日本では目にする機会がほとんどないのだ。

 星の位置は角度で表されるが、カノープスは最も高く昇った時でも、東京では地平からわずか2度の高さにしかならない。低空では大気の影響で明るさが減弱するし、ビルや街の明かりも邪魔になるので、首都圏の市街地でカノープスを見つけることはほぼ不可能だ。南に行くほど高く昇るが、鹿児島でも6度程度の高さに過ぎない。全天2位の堂々たる輝きを実感するには、少なくとも沖縄あたりまで行く必要がある。

 南に行くほど見やすいカノープスだが、逆に北限はどのあたりになるのだろうか。単純計算では北緯37.9度、福島市から新潟市あたりのラインが限界になる。だが、高い山に登れば、より北からでも観測が可能になるはずだ。これは天文ファンの関心を呼び、詳細な地形データを用いた理論計算や、実観測がこれまで行われている。今のところ、1983年に山形県の月山(北緯38.5度)で撮影されたのが最北記録なのだそうだ。

 滅多に見ることのできないカノープスには、昔から様々な伝説がある。千葉県では、房総半島最南端の村の名を取って「布良星(めらぼし)」と呼ばれ、海で亡くなった漁師の魂が仲間を呼んでいる姿として恐れられた。中国ではこれと逆に「寿星」あるいは「南極老人星」と呼ばれ、見ると寿命が伸びる、平和が訪れるなどと言い伝えられている。

 カノープスは、元日の真夜中ごろに最も高く昇る。関東以南にお住まいの方は、初詣のついでにでもカノープスを探してみてはいかがだろうか。上方にはシリウスが輝いているので、よい目印になるだろう。長寿と世界の平和を祈って、あるいは2024年最初の運試しとして、幻の星探しというのも悪くはないだろう。

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source : 文藝春秋 2024年1月号

genre : エンタメ サイエンス