サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
今年のWBCでは「ペッパーミル・パフォーマンス」が日本中を沸かせたが、いま科学の世界は「ペーパーミル」の存在に困り果てている。ペーパーミルは本来「製紙工場」を意味する言葉だが、この場合は悪質な偽論文を次々に生産する業者を指す。
研究者の評価は、一にも二にも書いた論文によって決まる。一流論文誌に多く論文が掲載されている研究者は、採用・昇進や研究費申請の際に大いに有利だ。一方、優れた論文を書けない研究者は、アカデミアを去る運命が待っている。
そこで、実績偽造を助けるペーパーミルが登場した。その多くは中国の業者で、表向き研究支援サービスを装っているが、偽論文の作成をも請け負う。ひな形となる文章に架空の実験結果を当てはめ、写真や画像も捏造して、プロでもそう簡単には見抜けない虚偽の論文を作り上げるのだ。論文が掲載されるまでには、同分野の研究者による審査を受け、必要に応じて修正やデータ追加などもしなければならないが、ペーパーミル業者はこうした要求もこなすという。おそらく、かなりの経験を積んだ研究者が関わっているのだろう。
ある論文誌では、2021年に投稿された論文の実に7割ほどがペーパーミル発のものであったというから恐ろしい。別の調査では、偽論文であることが発覚して取り下げられた論文が、2020年1月から21年10月の間に665報あったというが、これすら氷山の一角に過ぎまい。
ペーパーミルによる害は甚大だ。論文誌編集者や審査員は、多量の偽論文のために時間を空費することになる。不正しか能のない者が、優れた研究者を押しのけて教授の座を奪うこともあるだろう。論文にある虚偽のデータを信じて研究を行えば、真面目な研究者が年単位の時間を棒に振るようなことも起こりうる。
生成系AIの登場は、この問題に拍車をかけた。AIはそれらしい文章とリアルな画像を、低コストで量産してくれる。真偽判定の難しい論文が溢れれば、混乱はさらに拡大し、科学界への信頼は地に堕ちるだろう。
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source : 文藝春秋 2023年8月号