サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
前回、全天で2番目に明るい恒星である、カノープスについて書いた。夜空に見えるカノープスの明るさは、全天一の輝星であるシリウスに比べれば半分程度だ。
だが星の「実力」としては、カノープスの方が遥かに上だ。地球からシリウスまでの距離は8.6光年、カノープスは約310光年だから、地球が東京、シリウスが横浜としたら、カノープスは鹿児島あたりに相当する。にもかかわらず見かけの光度は半分だから、カノープスの真の明るさがわかるだろう。もしシリウスとカノープスが同じ距離にあったら、後者が1000倍近く明るく見える計算だ。見かけのきらびやかさに目を奪われると、真の実力を見誤ってしまう。
もっとうわ手もいる。はくちょう座のデネブは、約1400光年の遠方に存在するにもかかわらず、地球からは1.25等級という明るさに見えている。もしデネブがシリウスの位置にあったら、地球からは半月ほどの明るさに見えるというから、実に途轍もない光度なのだ。
我らが太陽はどうかといえば、シリウスの約20分の1、デネブの約5万分の1の明るさに過ぎない。40光年も離れると、肉眼で見つけることは困難になってしまう。無限とも思えるエネルギーを地球に供給してくれる偉大なる太陽も、銀河系の中ではその他大勢に過ぎないのだ。
そして最近になり、カノープスやデネブを軽々とぶっちぎる、驚くべき超巨星が報告された。2022年に発見されたこの星は、地球から約109億光年という遠方にありながら、22等級の明るさに見えている。ここから推定される光度は、なんと太陽の1億3000万倍以上となり、これまでの記録を大きく引き離すことになった。その破格の輝きから、この星には「ゴジラ星」という名称がつけられた。
さらに2023年、これに似た巨星が新たに報告され、こちらには「モスラ星」の名が与えられた。これらの星に対しては、新たに「怪獣星(Kaiju star)」というカテゴリーが提案されている。天文学用語にはちょっとユーモラスな名称が多いが、これもその一例になりそうだ。
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source : 文藝春秋 2024年2月号