高級老人ホームからの退去、そして80歳のペットロス

高齢化社会における心の豊かさについて考える

平野 悠 ライブハウス「ロフト」創設者
ライフ 社会 ライフスタイル

 コロナ禍中の4年前、当時私は76歳。家庭では30年も一緒に暮らしてきた妻ともどうも反りが合わず半年以上口もきかない日が続いた。

 私は妻とは別居という形で、入居金6000万という高級老人ホームに単身我が身を委ねる決心をする。多少お金はかかるがまさに千葉県の鴨川湾が見下ろせる風光明媚、自室から眺める風景はどこまでも私を魅了した。亀田総合病院が控える完全介護、どこまでも親切なスタッフ、いわゆる金持ち老人たちに囲まれての初めの1年は「よし、ここなら死ぬに限りなく充分だ」と思った。しかし、入居して2年目に入ると他の老人たちと距離をおくようになりだんだん自室に閉じ籠ってばかりになってしまい、ついには鬱症状まで出てしまう。

平野悠氏(本人提供)

 そしてこの老人ホームで、私はだんだん周囲から浮き上がる存在となり孤立を深めていく。小さな過疎の港町は海以外何もない。東京や千葉に映画やライブを見にゆくには往復4時間以上かかる。「映画や芝居が見たい! ロックのライブが見たい、友達とも一杯飲みたい、歌舞伎町の喧騒の中に戻りたい」と痛切に思った。

 結局ホーム入居から2年、私は妻が住む自宅に帰った。

80歳の不安の中での猫の死

 2024年8月ついに恐怖の80歳になってしまった。

「これからの限りある老後をどう生き抜くか」が私の最大の課題となった。

 80歳代から90歳へ向けて、どうやら私という生命体はまだ生きたがっているらしい。死への不安と怯えが交錯する。人間は誰しもいつかは死んでゆくという覚悟はもちろんあるが。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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