高級老人ホーム顛末記

平野 悠 ライブハウス「ロフト」創設者

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 とうとう80歳になってしまった。

 幼い頃からいずれ迎える死を思っては、眠れぬ夜を過ごしてきた。ここ数年は80歳から先の人生を想像するだけで、心がずしんと重くなった。まったくの健康体でありながら、である。

 そんな漠然とした恐怖から、2020年、75歳のときに“終の棲家”を探し始めた。その年に私が創設したライブハウス「ロフト」グループの会長職を辞任したことにも背中を押された。

 方々からパンフレットを取り寄せ、施設見学を重ね、たどり着いたのは、千葉県鴨川市にある「パークウェルステイト鴨川」。三井不動産グループが運営する老人ホームで、入居金は6000万円。いわゆる「高級老人ホーム」というやつだ。入居金のほかに、月々の共益費やサービス料などに約20万円が徴収される。さらに光熱費や交遊費に10万円以上かかるので、77歳で入居した私の場合、90歳まで生きたら合計で1億円以上かかる計算だ。

 決め手となったのは、小高い丘の上にある老人ホームの高層階から望む見事な景色。眼下に広がる雄大な鴨川湾を一目見るなり、ぶっ飛んでしまった。ここでテレビドラマ『やすらぎの郷』のように、インテリジェンスあふれる老人たちと酒を酌み交わしながら語らえたら、どんなにいいだろうと夢が広がった。

 当時、16歳下の妻とは30年以上セックスレスで、家庭内別居状態が続いていた。一つ屋根の下に暮らしていても、妻は1階、私は3階。しかも私の部屋には外に直接つながる裏階段があるので、家に入る玄関さえも別々。顔を合わせることも、口をきくこともほとんどない。離婚の話し合いをしたこともあったが、妻にはその意思がなかった。

 そんな関係なので、妻にシモの世話をさせるのは気が引ける。私の介護はプロの手に委ねたいと思い、単身で老人ホームに入居しようと決めた。妻は「あなたは海に抱かれながら一人で死にたいと言ってたものね」と理解してくれた。

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source : 文藝春秋 2024年11月号

genre : ライフ ライフスタイル