「こんな偶然あるんですね!」硫黄島の歴史を追う2人の対談で知った“濃密なコミュニティ”

vol.96

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「いやー、本当にうれしいです! 2006年に梯さんの御本を読んでからすべてが始まったんですよ! しかも(札幌藻岩)高校の大先輩でびっくりです! こんな偶然あるんですね! やっぱり硫黄島に関わると不思議な縁に恵まれます!」

『散るぞ悲しき 硫黄島総司令官・栗林忠道』を書いたノンフィクション作家の梯久美子さんと『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』を書いた北海道新聞記者の酒井聡平さん。世代は異なるも共に硫黄島の歴史を追ってきた二人の対談は、初対面に感激する酒井さんの言葉から始まりました。

 

 その興奮そのままに、毎日新聞の栗原俊雄さん(『硫黄島に眠る戦没者』の著者)など、硫黄島関係者や取材対象者が次々に話題になって盛り上がり、ほぼ全員が二人の共通の知人であることを知って、私は“硫黄島コミュニティの濃密さ”を実感しました。ようやく会話が途切れると、私が札幌のホテルに持参した『硫黄島』(石原俊・明治学院大学教授著、中公新書)が酒井さんの目に留まり、「なぜこの本があるんですか?」と尋ねられました。「たまたま知人で、巻頭随筆を寄稿してもらったこともあります」と私が答えると、「えっ? 実は明日東京で石原さんと会うことになっているんです!」と、それはあまりに“狭い世界”でした。

 その後、「今日はいろいろお話ししたくて、昔の資料を持参してきたんです」と、梯さんがカバンから資料を取り出して、次々にテーブルの上に並べると、「どれも第一級の資料ですねぇ」と、酒井さんは目を輝かせ、いきなりディープなやりとりとなりました。

 

「久しぶりに資料を引っ張り出したら、こんなものも出てきたんですよ!」と、梯さんが見せてくれたのは、〈発見を妨げる最大の障害は、無知ではなく、「知っている」と錯覚することである〉と、黄色の紙に書かれたメモでした。「すっかり忘れていましたが、こう書くことで、きっと、自分を戒めていたんですねぇ」(笑)と。“史実を確定していく緊張感”“ノンフィクションの名作が生まれる現場”を物語っていて、このメモ自体がひとつの“歴史”を証言しているようにも思えました。

「私が書いた『硫黄島の戦い』の後にこんな“戦後”があったのかと、酒井さんのご本から教わりました。島への上陸はハードルが高くて本当に苦労しましたが、核密約の存在など、その理由も初めて知りました」「若い世代に、しかも同じ高校の後輩に、自分の仕事が引き継がれているようで、とてもうれしい。まだしばらく手元に置いておきますが、いずれ、これらの資料は酒井さんに全部お渡ししますよ!」――梯さんの言葉は、ノンフィクション作品の書き手としての、硫黄島取材にすべてを捧げる覚悟の後輩に対する激励に満ちていました。

「前作は『遺骨』をテーマにしましたが、『元島民の未帰還問題』をテーマに次作を書いているところなんです!」と、“尊敬する先輩作家”に熱っぽく語る酒井さん。じっと耳を傾けた後、梯さんは、「島民を疎開させたのは栗林中将なので、その島民たちがいまだに島に戻れていないと聞くと、複雑な気持ちになります」と応じられました。それに対して酒井さんは、「民間人を戦闘に巻き込まないために住民を避難させたのは栗林中将の“英断”で、『戦時疎開』と『戦後の島民未帰還問題』は別問題です」と。

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