(1)なぜ、いま真珠湾攻撃なのか
保阪 本誌の昨年12月号で「昭和陸軍に見る日本型エリート」、今年5月号で「昭和海軍に見る日本型エリート」という座談会を行いました。陸軍や海軍の精鋭たちがなぜ太平洋戦争に突き進み、むざむざ敗戦してしまったのか。彼らの人物像や行動様式、旧日本軍という組織・人事の問題点などを分析することで、現代の企業社会や官僚組織に通じる“失敗の本質”を学ぶ企画でした。
新浪 日本陸軍は勝つための組織ではなく、開戦時の首相である東條英機に代表されるように、陸軍の長が、その座に長く居座るための組織になってしまっていた。一方、海軍のエリートたちは、バブル崩壊後の経営者たちと通底するものがある。厳しい現実から目を背け、「なんとかなるだろう」と楽観視した。
その象徴が真珠湾攻撃なのではないでしょうか。勝利と言われていますが、あの作戦で何を得ようとしたのか、何に失敗したのか。事後に検証された形跡が見当たらない。アメリカの戦意を喪失させて講和に持ち込むには、中途半端な戦果だったのに、政府も国民も戦勝ムードに浮かれてしまった。
楠木 不思議な作戦ですね。アメリカと戦えば必ず負けるとわかっていた山本五十六が、なぜ真珠湾攻撃を企てたか。軍人として日本を少しでも有利にするために考えた、ギリギリの策だったという印象です。
保阪 そこで今回は、太平洋戦争の起点である真珠湾攻撃を中心に議論しましょう。ハワイ・オアフ島の真珠湾へ、連合艦隊司令長官、山本の命で空母機動部隊が奇襲をかけたのは、1941年12月8日の未明。そこに至る経緯から、作戦立案に関する疑問、そして、真珠湾攻撃が後の戦いにどう影響したのかまで、忌憚なく話し合いましょう。
戸髙 戦果をまとめておきます。赤城や加賀など、参加した航空母艦は6隻。そこに搭載された零式艦上戦闘機、九七式艦上攻撃機、九九式艦上爆撃機、計350機による大規模な攻撃でした。アメリカ軍は、戦艦アリゾナなどの6隻の艦船が沈没し、航空機231機の損害。2400名を超える死者が出ました。一方、日本側の犠牲は、死者数は明確ではありませんが、失われたのは航空機29機、特殊潜航艇5隻のみでした。ただ、日本側が主要攻撃目標としていた米空母部隊は当時ハワイにおらず、米海軍の戦力を大きく減らすには至らなかった。
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source : 文藝春秋 2024年12月号