「死に場所」を求めた天才戦略家の苦悩を追う(構成:栗原俊雄)
連合艦隊司令長官で海軍大将だった山本五十六の死から、まもなく80年が経とうとしている。
昭和18(1943)年4月18日、山本らを乗せた一式陸上攻撃機は、日本海軍の南方拠点ラバウルのブナカナウ飛行場を飛び立ち、ブーゲンビル島南端のブインの基地に向かった。山本はニューギニア戦線で米軍を叩く「い号作戦」を指揮していたが、作戦終了後、前線にいる将兵をねぎらうのが目的であった。山本はもう一機の一式陸攻と護衛の零戦6機だけを引き連れて現地に向かったが、その途中で米軍の待ち伏せに遭って撃墜され、戦死した。
山本は類まれな軍事的才能とリーダーシップを持ち合わせた人物で「軍神」と崇められ、今なお人気は高い。「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」という山本の金言は、各界のリーダーが好んで引用する。また、対米戦争に強く反対していながらも真珠湾攻撃を実行せざるを得なくなり、司令官でありながら最前線で劇的な死を遂げた山本のイメージは、“悲劇の英雄”そのものである。それゆえ日本人の心を揺さぶり続けるのかもしれない。アメリカでは山本は真珠湾攻撃を主導した「ダーティ・ジャップ」の象徴とされている。だが、戦略家としての才能と紳士的な交渉態度は、連合国側の軍人たちからも一目置かれていた。
今回は、山本五十六という多面体の人物に注目することで、日本海軍の失敗の本質を探るとともに、現在に流れる地下水脈を考えてみたい。
「賊軍」の系譜
山本の生涯を見る際、3つのポイントがある。
第一に、山本の出自は「賊軍」の系譜に連なることである。
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source : 文藝春秋 2023年5月号