科学者が一流でも政治指導者が無策なら国家は滅びる(構成:栗原俊雄)
戦後長らく「科学技術立国」として世界をリードしてきた日本の地位が、急激に凋落している。半導体に代表されるハイテク産業は欧米どころか中国・韓国の後塵を拝し、基礎研究の分野でも目立った業績が出てこない。海外の大学や研究機関への頭脳流出も進んでおり、今後日本からはノーベル賞受賞者が出なくなると危惧する科学者も少なくない。
日本の科学技術への信頼性が大きく揺らいだのは12年前の東日本大震災の直後に発生した福島原発の事故だった。「絶対安全」と謳われた日本の原子力政策が、科学的な客観性よりも政治的判断が先にありきで決められてきたことが露呈した。さらに災害など有事に対する甘い見通しの下、原子力業界そのものが補助金などぬるま湯に浸かってきた構造も明らかになった。
かつて私は、太平洋戦争中に日本が原子爆弾の開発をしていた経緯に関心を持ち、計画に関与していた科学者たちに取材を重ねたことがある。
結論を先取りするかたちになるが、戦前の日本には世界基準で見ても優秀な科学者が数多くいた。しかし、政治・軍事指導者が科学に対する理解をあまりにも欠いていたがために、彼らの能力を生かすことができず、原子物理学の研究そのものが歪められてしまったのである。
戦後78年が経とうとしている今、科学技術軽視の風潮と、政治指導者の無理解によって科学の発展が歪められてしまうという地下水脈は、今なお日本社会に流れているように思えてならない。
そこで今回は、戦時中に秘かに進められた原爆開発計画を検証しつつ、日本の科学と政治に内在する問題点を見てみたい。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年4月号