「天皇」と「個人」の葛藤

日本の地下水脈 第29回

保阪 正康 昭和史研究家
ニュース 社会 皇室

平成の天皇が求めた「戦争のない時代」と「民主主義」。その言葉から、天皇が抱えてきたジレンマが見えてくる

 本誌1月号、2月号で紹介したが、私は平成の天皇・皇后両陛下にお目にかかって雑談をさせていただく機会を計6回いただいた。

 陛下は日本の近現代史に強い興味を示されていた。とりわけ太平洋戦争に至る経緯については、ご自身で数々の文献に当たられて勉強されていることもわかり、私は驚きを禁じ得なかった。

 そうした雑談の中で感じられたのは、「なぜ日本は戦争への道を歩んでしまったのか。戦争は決して起こしてはならない」という陛下の強い思いである。また、「自分の代には戦争がなかった」ことを非常に喜んでおられることも、ひしひしと伝わってきた。

 戦後育ちの世代は、戦争がない世の中を当然のことのように受け止めてしまうが、日本の近代史は戦争の連続であった。宣戦布告のあった戦争に限っても、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、太平洋戦争がある。また、宣戦布告なき戦争も含めれば、シベリア出兵、満州事変、日中戦争、張鼓峰事件、ノモンハン事件がある。明治天皇、大正天皇、そして昭和天皇は、これらの戦争に直面し、重い決断を迫られた。

「天皇と戦争」というテーマで近現代史を分析する際、重要なポイントは二つある。

 ひとつは、天皇の唯一にして絶対の関心事は、「皇統の存続」であったということである。歴代天皇は好戦主義者でも厭戦主義者でもなかった。開戦の判断を迫られた時、天皇が考えていたのは「皇統の存続ができなければ、皇祖に申し開きができない」という強い意思であった。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年3月号

genre : ニュース 社会 皇室