平成の天皇が求めた「戦争のない時代」と「民主主義」。その言葉から、天皇が抱えてきたジレンマが見えてくる
本誌1月号、2月号で紹介したが、私は平成の天皇・皇后両陛下にお目にかかって雑談をさせていただく機会を計6回いただいた。
陛下は日本の近現代史に強い興味を示されていた。とりわけ太平洋戦争に至る経緯については、ご自身で数々の文献に当たられて勉強されていることもわかり、私は驚きを禁じ得なかった。
そうした雑談の中で感じられたのは、「なぜ日本は戦争への道を歩んでしまったのか。戦争は決して起こしてはならない」という陛下の強い思いである。また、「自分の代には戦争がなかった」ことを非常に喜んでおられることも、ひしひしと伝わってきた。
戦後育ちの世代は、戦争がない世の中を当然のことのように受け止めてしまうが、日本の近代史は戦争の連続であった。宣戦布告のあった戦争に限っても、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、太平洋戦争がある。また、宣戦布告なき戦争も含めれば、シベリア出兵、満州事変、日中戦争、張鼓峰事件、ノモンハン事件がある。明治天皇、大正天皇、そして昭和天皇は、これらの戦争に直面し、重い決断を迫られた。
「天皇と戦争」というテーマで近現代史を分析する際、重要なポイントは二つある。
ひとつは、天皇の唯一にして絶対の関心事は、「皇統の存続」であったということである。歴代天皇は好戦主義者でも厭戦主義者でもなかった。開戦の判断を迫られた時、天皇が考えていたのは「皇統の存続ができなければ、皇祖に申し開きができない」という強い意思であった。
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source : 文藝春秋 2023年3月号