「私自身が日頃考えていたこと、つまり日本近現代史の中には地下水脈があって、そこには偉大な先達たちの貴重な遺産がいくつも眠っている。それを掘り起こし、それを現代につなげる作業を、この連載で実現できました」
そう語ったのは、第87回文藝春秋読者賞を受賞した昭和史研究家・保阪正康氏(86)だ。2月17日に文藝春秋本社(東京都千代田区)で開かれた授賞式に出席し、選考顧問や関係者を前に喜びを語った。

「なにも日本は、ある日突然軍国主義でおかしくなったわけじゃない。それ以前に、この国の地下水脈にはバランスの取れたものはあった。それがなぜフェードアウトしたのか、きちんと整理したかった」
ふっとしたときに自然と和歌が出てくる
連載の狙いについて、このように説明した保阪氏。5年余に及ぶ連載を終えて、自身の日常にも変化があったという。
「昨年の終わりから私の中に奇妙な現象が起こってるんです。ふっとしたときに自然と和歌が出てくる。40年の付き合いだった編集者が亡くなったとき、お正月に台所で娘たちがお正月の料理をしてるその影を見たとき。電車の中で子どもが駄々をこねて母親が困惑してる姿を見たときも、前はうるさいなって思いましたけど(笑)、今それを見ながら和歌が出るんですね。
私は特攻隊のことをずいぶん調べました。特攻隊の人はだいたい辞世の句に和歌を書いてます。生き残った人に会いましたが、『和歌の勉強したんですか?』って聞いたら、そんなことしないと。死を前にした日々の中で自然と歌が出てくるんだと聞いたことがあります。人が自分の人生を晩年に振り返っていくとき、自然にその潜在意識に眠っていたものが言葉になる。日本人なら和歌になって出てくるんだと確信しました。
『地下水脈に何が眠っていたか』という本誌の企画をやっているうちに、私はそれをごく自然に会得したんだと思います。最大の収穫でした」

受賞した保阪氏の「日本の地下水脈」は、2020年7月号から2025年12月号まで文藝春秋で連載された。
読者から多くの支持を集め、昨年12月に行われた読者賞選考会でも選考顧問(片山杜秀、本郷和人、三浦瑠麗の3氏)からも「戦後80年に相応しい力作。長年取材されてきた昭和史をちりばめ、現代日本の危機的状況が分かりやすく描かれている」「保阪さんの地下水脈には分厚いものがあり、ただひたすらに感嘆した」「時流におもねらない論考が読み手に安心感を与える」など、高い支持を得た。
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source : 文藝春秋 電子版オリジナル


