秋はまた叙勲の季節である。叙勲は毎年4月と11月、毎回おおむね4000人が対象となっており、いわば春秋の恒例行事となっている。
だが、あまり知られていないが、叙勲には根拠法が設置されていない。日本国憲法第七条は「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」とあり、同条第七項に「栄典を授与すること」と定められている。しかし、詳細については法的な根拠が定められていない。そのため、実質的には明治時代の太政官布告や戦前の勅令などをもとに、今も叙勲は続けられていることになる。
そうした曖昧さが表面化したのが、今年7月に暗殺された安倍晋三元首相への叙勲である。国葬をめぐる騒ぎのなかで忘れられがちだったが、暗殺事件の3日後、安倍元首相を従一位に叙するとともに、最高位の勲章である大勲位菊花章頸飾、および大勲位菊花大綬章を授与することを政府は決定している。戦後、大勲位菊花章頸飾を受章したのは、いずれも首相経験者の吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘に続いて4人目であった。安倍元首相に、はたしてこの勲位にふさわしい業績があったといえるのか。議論が分かれるところである。
しかし、ある国がどのような人物にどんな勲章を授与するのかをみれば、その国家の価値基準がおのずと明らかになる。たとえばフランスは国外の文化人や芸術に寄与した人物にも積極的に勲章を授けている。アメリカは功績のあった軍人に名誉勲章を授けているが、議会の名において授けられ、「議会名誉黄金勲章」とも呼ばれる。徹底的な文民統制を重んじるアメリカらしいあり方である。英国は1960年代にビートルズに勲章を授与したが、保守の伝統のなかにも新しい文化に対する寛容さがあることを示した。
このように見てみると、勲章制度はつまり、その国がどのような国のあり方を目指しているかを知るバロメーターであるといえる。
今回は、日本の叙勲制度に流れる地下水脈について考えてみたい。
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source : 文藝春秋 2022年12月号