今回、秋元に呼び出されたのは、「室町砂場」の赤坂店だ。昼時は混雑するので、客もまばらなこの時間を指定したのだろう。店に入って、左手にある小上がりの奥から、秋元が手を振る。すでに、ねぎ焼きをツマみながら、日本酒をお猪口でちびちびやっていた。
「これから、インタビューは、全て、食事や酒を飲みながらってことにするんですか?」
僕は、少し呆れたように、そう言いながら座卓をはさんで秋元の前に座った。
「ほら、こんな陽が高い時間から、行きつけの日本蕎麦屋で一杯なんて、粋だろう? 池波正太郎や開高健や檀一雄のような文豪みたいで……」
「いや、僕はまた、秋元さんが現状のインタビューの連載に飽き足らず、“美味しい店紹介”の要素を加えようとしたのかと思いました」
「それも、少しはある。仕事柄、人参が嫌いな子どもに、どうやって人参を食べさせるか? を、無意識のうちに考えてしまうんだ」
「人参嫌いな子どもと、月刊『文藝春秋』とどう関係があるんですか?」
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source : 文藝春秋 2023年12月号